経済・社会

2022.09.02 06:30

米国の医療体制を崩壊の淵に追い込む3つの「巨大な力」

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新型コロナウイルスの世界的大流行に伴う日常生活の混乱を予想した人は、ほとんどいなかっただろう。だが、発生からすでに3年目に入った現在、ワクチンや抗ウイルス薬、公衆衛生上の対策などのおかげで、米国人のおよそ75%は、パンデミックの「最悪の時期は過ぎた」と考えるようになっている。

だが、その米国にはいま、また新たな“最悪の事態”が迫りつつある──医療体制に大惨事が起きようとしている。

破滅的な事態に関する予想は、大抵が誤りだったり、誇張だったりする。だが、なかには的中するものもある。その一例が、ルイジアナ州立大学の研究チームが予測した「ハリケーン・カトリーナ」の襲来だ。

チームは2004年、「大災害の発生が差し迫っている」と予想した。それから1年もたたないうちにニューオリンズを襲ったカトリーナは、1833人の命と何千もの人の住む家を奪い、水没した地区の一部は、約3.4メートルの高さまで水に浸かった。

研究チームはデータに基づくコンピューターシミュレーションのおかげで、カトリーナの襲来を予測することができた。温度、風、堤防や交通機関の状況など、人々の命に危険を及ぼし得るさまざまな要因が重なり合った結果、ハリケーンは一定の破壊力を持つものになると判断したのだ。

──米国の医療体制にも、カトリーナ級のハリケーンのような“巨大な力”が差し迫っている。破滅的な事態をもたらし得るのは、次の3つの要因だ。

1: 抑えの効かないインフレ


米国のインフレ率は現在、およそ40年ぶりの高水準に達している。だが、ガソリンや食料品、住宅価格とは異なり、医療費はリアルタイムで変動するものではない。

看護師の給与から包帯、処方薬などすべての料金・価格が、12~24カ月固定で1~2年前に設定されている。これらは秋に行われる見直しのタイミングで、大幅に引き上げられることになるだろう。

また、保険会社の大半は来年から、保険料の雇用主の負担分を10~15%増やす予定だ。世帯の医療費支出も、増加することになると考えられる。

2: 看護師の不足


手術が延期、または中止されるケースはますます増加している。そうしたなかで、調査結果によると約3割の看護師が退職を検討しており、その多くが看護師以外への転職を希望している。また、ベビーブーマー世代の看護師は4人に1人以上が、年内に退職する見通しだという。
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編集=木内涼子

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