2021年2月18日に劇的なパラシュート降下を果たして以来、火星ではこのトラックサイズのロボットは、ジェゼロクレーター内にある三角州を探索しているが、2022年8月25日にScienceに掲載された最新論文は、クレーターの底面からすでに採集されている岩石標本に関する新たな事実を報告した。
興味深いことに、一部の標本には液体の水によって地球化学的に変化させられた形跡があるという。
このニュースは、NASAと欧州宇宙機関が火星サンプル持ち帰りミッションの計画を最終決定する中で伝えられた。2027年に初めての火星往復飛行を行い、2033年に問題の岩石サンプルを宇宙生物学者たちが研究するために地球に持ち帰るという計画だ。
「火星のそれらの岩石は、水によって著しく変質させられた可能性があり、その結果岩石の中で形成された炭酸塩、酸化鉄、その他の塩などが含まれていると考えられます」とフロリダ大学の宇宙生物学および地質学教授で、パーサヴィアランスミッションの立案者の1人でもあるエイミー・ウィリアムズはいう。「これらの物質は、生命体が存在していた場合に活用できる地球化学的で微小な環境を提供します」
現在は乾燥し、低温で放射線が強いジェゼロクレーターだが、かつて、おそらく数百万年前には湖があったのだろう。そこは居住可能だったのだろうか? 科学者たちは、数十億年前に水をもつ火星が生命を維持していた可能性があると考えている。
バイオシグニチャーの探求
パーサヴィアランス初の探査活動で見つかったこれらのサンプルは、クレーター底部が予想していたよりもはるかに侵食されていることを示しており、溶岩とマグマから作られた火成岩の存在を明らかにした。パーサヴィアランスの研究者らは、湖底を形成していたであろうもっと柔らかい堆積岩しか見つからないと考えていた。
これは予想外の贈り物である。なぜなら発見された火成岩、具体的にはMáaz(マーズ)とSéítah(セイタ)と呼ばれる組成のサンプルが、三角州以前に存在していた可能性が高いからだ。
「これらの鉱物の水による変質には、バイオシグニチャー(生命存在の痕跡)が記録されている可能性があります」とウィリアムズはいう。バイオシグニチャーは過去または現在の生命の証拠だ。「地球にはこれと非常によく似た種類の岩石に住む生命体がいます」
ここでいう生命体とはバクテリアや古細菌のような微生物のことで、地球上のあらゆる極限環境で生きていく能力をもっている。「微生物の中には、私たちがジェゼロクレーターの底面で識別したものと似た火成岩の中や表面に住むものがあります」とウィリアムズはいう。「その中には、地表から何キロメートルもの深さの場所に住んでいる微生物もいるのです!」