渡仏して戦略的にミシュラン獲得 シェフがいま考える「料理」の意味

南仏ニースに構えるレストラン「KEISUKE MATSUSHIMA」


中道:
ニースはどのような場所でしょうか。

松嶋:フランスを代表するリゾート地なので、心地よいですよ。太陽を浴びたければ存分に浴びられますし、暑いと思ったら日陰に入れば風を感じてよく過ごせます。非常に暮らしやすい場所だと考えています。

中道:なぜニースを選ばれたのでしょうか。

松嶋:山と海があること。そして、ある程度インターナショナルな都市であるからですね。

当時、日本人で活躍したシェフを考えたとき、シドニーの和久田哲也さんとロサンゼルスの松久信幸さんの2人が思い浮かびました。シドニーもロサンゼルスも首都ではないものの、インターナショナルな都市。そして、僕は福岡出身なので南が好きで、海と山があるような環境で子育てをしたいとも考えていました。そうなると、パリでもリヨンでもなく、ニースだなと。

中道:フランスで育ったお子さんは、日仏両方のマインドを持っていますか。

松嶋:そうですね。自分の想像を超えてきます。環境が違うと、成長の仕方も違うと驚かされることが多くあります。

中道:なるほど。僕の子供たちもイギリスの学校に通っていて、帰国した際は「こう育ったか」と驚きます。

話を戻すと、フランスでミシュランの星を獲得後、日本にもレストランを出店されるわけですよね。

松嶋:2008年に原宿で店を構えました。フランスで一つ星くらいとっていれば、オファーもいっぱい舞い込むだろうと考えていたので。

中道:その計画通り、オファーは来ましたか。

松嶋:来ましたね。予定通りだなと。ただ、コロナの影響もあり、2020年に閉店しました。やはり移動ができなければ、営業も管理も難しくなりますから。


原宿の店舗では帰国時にセミナーや料理教室も開催していた

中道:それまでは二つ拠点があったわけですが、どのような違いがありましたか。

松嶋:基本的に同じ店ですが、食材が違うので、メニューも違いました。また、フランスで人気のあった斬新な料理では基礎や基本が身につかないため、人材育成には適していないという問題もありましたね。

メニューはニースでも少し変えていて、試行錯誤が続いています。経営を考えれば、長く店舗を続ける必要があるものの、一方で人材育成もあれば、従業員によって目指している夢や目標も少しずつ異なるものです。そういった状況で、フランスと日本で共通するものを作ることには悩みもありました。

料理の世界は数年で人が入れ替わり、まったく異なる指導を受けてきた人材が入ってくるという難しさもあります。加えて、若い新人たちがみんなフランスへの夢を持っているかと言えば、そうでもありません。「働ければ幸せ」「いいお店にいれば幸せ」という考えの人も多い。そうなると、「こうやるんだ」という一方的な指導も問題が出てきます。そういった世代間のギャップを理解をするにも、多くの時間を費やしましたね。

文=小谷紘友 編集=鈴木奈央

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