「私がゾラに惹かれたのは、常に主体的であるからでした。ゾラはアメリカで働きながら暮らす若いアフリカ系アメリカ人の女性です。彼女は、成功するよりも転落していくほうが多いような世界で、はっきりと声を上げているのです」
ジャニクサ・ブラヴォー監督もこう語ように、「Zola ゾラ」は、一見セックスや犯罪にまみれた極めてスキャンダラスな世界を描きながらも、そこでもなおかつ自分を見失うことのない強い意志を持った1人の女性を描いている。原作ともなった148のツイートが広く人々の心を掴んだのも、そのような本人の矜持が反映されていたからかもしれない。
観る者を魅惑するポールダンス
「Zola ゾラ」は、ゾラとステファニを対のバディとしたロードムービーとしても観ることができる。人種も性格も異なる2人の女性像を、それぞれテイラー・ペイジとライリー・キーオが見事に演じている。
なかでもゾラを演じるペイジが随所に見せる意志力のみなぎる瞳は印象的で、作品を貫く「骨格」ともなっている。どんな危うい状況になっても自分を守り、時には機転を効かせて危機さえも好機にしてしまう、そんなゾラの筋の通った振る舞いを象徴するかのように、ペイジの瞳は輝いている。
(C)2021 Bird of Paradise. All Rights Reserved.
また、ペイジは劇中でポールダンスを踊るにあたって、実際のクラブを訪れて雇ってもらえないかと相談し、その場で採用され、役づくりに没頭したという。そのため、ゾラが踊るポールダンスのシーンは観るものを魅惑する見事な迫力があり、作品のなかでは何度も登場する。
ゾラの相方となるステファニを演じるライリー・キーオの演技も素晴らしい。映画監督としても活躍しており、初の監督作品「WAR PONY」が第75回カンヌ映画祭の「ある視点部門」で新人監督賞の「カメラ・ドール」を受賞したという才人だ。にもかかわらず、劇中では蓮っ葉で浮気な女性を体当たりで演じている。
映画オリジナルとなるステファニ視点でゾラの物語を語るシーンでは、被害者意識を全面に押し出した役柄をカメレオンのように演じ分けて、作品に毒気をはらんだ奥ゆきも与えている。
いずれにしろ、ペイジとキーオが演じる、ゾラとステファニの微妙な関係の上に成り立つ「友情」がこの作品の見どころでもある。
8月26日(金)より新宿ピカデリー、渋谷ホワイトシネクイント他で全国ロードショー (C)2021 Bird of Paradise. All Rights Reserved.
ネットから生まれた映画らしく、作中には何度か「@zola」というテロップも登場し、おなじみの着信音も頻繁に流れる。映像も音楽もスタイリッシュにつくられており、上映時間もいまどき珍しい1時間半を切る作品だ。とはいえ、密度濃く詰まったエピソードはいささかも退屈させない。
ゾラとステファニがデトロイトを出てから65時間超、最後まで息をつかせぬファッショナブルで危険な香りが立ち込めるロードムービーとなっている。