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2022.09.06 16:00

1時間で1500万円売上を達成。MTG、花王、小学館、ヤマダデンキ……次々と企業を魅了する戦略的ライブコマース「ライブル」の成功の方程式

(右)テイラーアップCEOの松村夏海 (左)テイラーアップ COOの和田英男

ライブ配信を通じてリアルタイムにブランドや商品の魅力を消費者に伝え、販売へとつなげる手法であるライブコマース。近年中国においてその成長はめざましく、2020年末のライブコマースの市場規模は日本円にして14兆円を超えると言われる。日本でも各企業が取り組みを始めているが、成功事例は未だ多くない。

そんな中、ライブコマースプロデュースを手がけるテイラーアップは2020年の創業から2年ですでに300本以上のライブコマースを手掛け、外資系消費財メーカーのアジア初の成功事例や、1時間で1500万円の売り上げを成功させた事例もあるという。CEO・松村夏海は「日本にはライブコマースが根付きやすい土壌がある」と需要の拡大を見据える。

他社では失敗事例が多い中、なぜテイラーアップだけが大きな成功を手にしているのか?「消費革命でもう一度日本を経済大国に」という壮大なビジョンを掲げるテイラーアップのCEOとCOOがライブコマース」の可能性を語った。


日本独自のライブコマース手法の重要性


松村は、今の中国でライブコマースが成功している背景を次のように分析する。

「中国の通信販売では粗悪品や偽物が出回り、信用度が低いという背景がありました。そこで有名人を起用し、『有名人が本当にPRした商品なら安心できる』と信頼を勝ち取れた点が、中国においてライブコマースが成長した大きな理由です。またライブコマースから最安値で購入する文化や土壌も整備されているため、低価格も魅力となっています」(松村)

一方、日本は従来テレビショッピングやECサイトへの信頼度が高い。また、ブランド側は製品を簡単に安売りすることはできない。言い換えれば、中国のやり方を真似て有名人を起用したライブコマースをやるだけでは売り上げにはつながらないということだ。日本におけるライブコマース戦略のヒントとして、テイラーアップCOO和田英男は『プロセスエコノミー』という言葉を挙げた。

「商品がどういう背景で生まれ、なぜ消費者に届けたいかというストーリーテリングが重要だと考えます。プロセスに共鳴した買い手がファンとなり『もっとコミュニケーションを取りたい』という“熱量”が生まれ、購買につながる。そういったスタイルが成長した先に“安売り”ではない日本独自のライブコマースが真価を発揮するでしょう」(和田)

また、ライブコマースは視聴者からのコメントに応える双方向のやりとりが特徴だ。ここで日本が培ってきた高レベルの接客を提供できれば越境ECにおいて大いに武器になり、日本独自のライブコマースとなりえる可能性がある。



”戦略型”ライブコマース「ライブル」に込めたノウハウ


創業から2年で約300本ものライブコマースを手がけたテイラーアップは、成功するライブコマースの方程式を掴み、「売れる“戦略型”ライブコマース」をプロデュースするサービス「ライブル」を提供している。

テイラーアップは「売るモノだけ用意してください。あとはぜんぶやります」と請け負う。目的に応じた企画、媒体選定、演者選定と教育、配信のシステム構築、データ分析まで一手に担い「競合としてみなしている企業はいない」と自負する。

「面白いことに、ライブコマースはひとつでも辻褄が合わないと失敗します」と松村は語る。人気タレントや人気商品を取り上げても、視聴導線や台本設計がマッチしなければライブは全く盛り上がらない。また、台本に伝えたいことを詰めすぎても、棒読みのつまらないライブとなり、大量の離脱が発生してしまう。テイラーアップは『この商品を売るためには本当にライブ配信が必要か』という点から検証し、『有名人を起用するべきか、商品に詳しい社員を起用すべきか』など、ひとつずつ正確なピースをはめるようにライブコマースを構築していく。

「意識しているのは、集客しやすい配信プラットフォーム精査などの視聴導線、ライブコマースをわざわざ見にいく視聴動機、気になった商品を購入するための購買導線。そして何より商品を手に取りたいと思わせる購買動機。この4つは特に綿密な設計をする必要があります」(和田)

接客員をDX化。花王に導入実績のあるライブコマーサー育成研修


テイラーアップは、ライブコマース成功のキーになるのはライブを行う“コマーサー”であるとし、「企業内の接客員のDX化」を掲げた研修事業も手がける。ライブコマースにおける「1対n」のデジタル接客ノウハウをトレーニングする研修だ。

花王は、スキンケア・メイクアップブランドでテイラーアップの研修を取り入れた。ライブコマースの背景や配信内容のプランニングの方法、配信時の振る舞いに至るまで約2.5カ月かけて研修を実施。美容部員はスキンケアテクニックやメイクテクニック、マーケターは開発秘話と、各業務領域に応じて商品ストーリーを語れるようアドバイスを行う。

「デジタル接客では『“ライブ”だから伝わる“熱量”』が重要です。視聴者の熱量も高められれば次のライブでも視聴者を呼び込めるし、新規のお客様も増えていく。ライブ配信の接客は店頭接客とは別モノ、と考える方が多いのですが、蓄積された接客ノウハウをデジタルで伝えるだけですので実は多くは違いません。やればやるほどリアルとデジタルの差は無いと実感されるようです」(和田)

花王では最終的にライブコマースを社内で自走できるような環境づくりを目指し、すでに社内に整備した自社スタジオで、美容部員が自らシナリオを作ったライブ配信で活躍する。その勢いに和田は「一人ひとりのライブコマースのリテラシーも高く、非常に上手に取り入れられています」と感嘆する。

世界初インスタグラム用ライブコマースツールを独自開発


ライブコマースの配信には有料のライブコマース配信プラットフォームを利用する方法もあるが、一般的にはSNSのライブ配信機能を利用することが多い。だがインスタグラムやFacebookといったSNSでは、配信中の視聴者数の推移や流れるコメントを後から把握し、その先のコマースまでつなげる手段がない。ライブコマースの成功にはこういったデータの活用と分析は欠かせない、と松村氏。そこでテイラーアップでは独自にインスタグラム用ライブコマースツール「LiveCommerce force」を開発、2022年9月にリリースする。今後は他のSNSにも対応したライブ配信の分析ツールも開発予定だ。

「これまで取得できなかった視聴者の流出入データを可視化できる世界初のシステムです。ライブ中のコメントデータを配信後に把握でき、コメントが盛り上がったタイミングの分析もできるようになります。また、配信中に視聴者にDMを自動送付し、リアルタイムの熱量をそのままに、コマースに繋げていく仕組みも取り入れています」(松村)

日本のライブコマースの成功と進化に必要なツールの先陣を切った形だ。

視聴者を掴むライブコマースの実例


テイラーアップが、「ライブル」で構築してきたライブコマースの具体的な事例を見ていこう。

・Dyson|有名人ユーザーの熱量を引き出し、スポンサードの空気を払拭

「変わらない吸引力」でお馴染みのダイソンだが、ライブ配信では掃除機の排気性能に注目。ダイソン製品を使用すれば室内の空気が汚れることなく、掃除ができるという点をリアルなダイソンファンであるタレントが熱弁。さらに和田は「いかに“スポンサード(企業)感”を出さずにライブ配信をするかが大きな課題」だとして、タレントの自宅を再現したスタジオで配信を行い、よりリアルな雰囲気を視聴者に届けた。

・ヤマダデンキ|小売店で「人」に紐づく購入動機を設計

ヤマダデンキでは、毎年開催される「歳末セール」で初めてのライブコマースを実施。ロボット掃除機等のPRをおこない、合計1万人以上の視聴者データを蓄積した。

ここでポイントとなったのは、テレビショッピングなどに出演経験もある社員の起用。松村は「モノだけでなく『社員のブランディング』にもつながったのではないか」と手応えを語る。小売店でありながら「モノ」ではなく「人」に紐づく視聴・購入動機を醸造することで、かつての渋谷109のように“カリスマ店員”が活躍する時代が再来するのでは、と読んでいる。

・小学館|「限定感」を醸してファンを掴む

美容誌「美的」やファッション誌「Oggi」では、各メディアが読者と共に長年築き上げた世界観を、いかにデジタルに変換するかに注力。例えば反響の高いインスタライブでは誌面だけでは伝わらない商品の質感や使用感などを映像で伝えていった。

またライブで紹介したアイテムをその場で購入できる導線も構築。メディアの価値観に賛同するファンに応えるコンテンツづくりをし、ライブコマースだけの「限定感」という新たな価値観を醸成して商品を販売するということにも挑戦を始めている。

・MTGグループ|企業が「ライブ配信」を行う意味を見直す

美容機器で知られる「ReFa」のブランドディレクターが立ち上げたスキンケアブランド「ON&DO」を担当。「VITAL BEAUTY」をブランドコンセプトに掲げる同ブランドは、五島列島で自社農園を運営し、育てた椿などこだわりの素材を用いて作り手の想いを色濃く詰めた商品を提供している。その強い想いに着目し、椿の生産者や開発者、研究者も巻き込んでライブ配信を毎週実施。ファンの心を掴んだ。まさに発信側の“熱量”を体現した戦略と言える。

「個人でも簡単にブランドを立ち上げられるいま、『なぜ企業がやるのか?』を伝えるのは重要です。企業がもつ研究力や生産力をアピールしなければ、個人に負けてしまうんです」(松村)

「ライブ配信はコミュニケーションツール。新たな顧客を増やすよりもブランドとの“接着面”をより強固にするイメージです。実際にライブを見たお客様が店頭に行って商品を試す行動も日本のライブの特徴です。ライブ配信=コマースと考えてしまいがちですが、ブランドが”売り”と”コミュニケ―ション”の両軸で柔軟に使いこなしていくことが、独自進化する日本のライブコマースの解ではないでしょうか」(和田)



ライブコマースは日本の「消費革命」のカギとなるか


松村は和田とともに築き上げてきたライブコマースの手法を、著書『売れる「ライブコマース」入門』にまとめ、2022年6月に刊行。ノウハウの公開は業界の活性化も後押しすることになるだろう。

こうして日本のライブコマースを進化させながら、同時にその未来図も描いている。日本から海外への越境ECもそのひとつだ。また「メタバース」とライブコマースとの親和性を見据え、現在すでにNFT企業とパートナーを組み、NFTの販売も視野に入れている。

「5年後には海外へ、10年後にはメタバースへ広げていきたい。消費革命のために“越境”は欠かせないですね。コマースは普遍的ですが、媒体はいずれ変わっていくでしょう。現在ライブコマースには『商品に実際に触れられない』という弱点がありますが、メタバース上ならばNFTというリアルに存在しない商品の売買になるため、販売が全てライブコマースに集約されます。そこでは商品に対する血の通った熱量の醸造と共有が、より重要なものになっていくでしょう」(松村)

テイラーアップ
https://www.tailorapp.jp/


松村 夏海(まつむら なつみ)◎テイラーアップ代表取締役社長。1997年生まれのZ世代経営者。法政大学卒。在学中にフォントボン大学に留学。祖父、父ともに経営者だったため、自然と経営の道を志す。大学の単位を2年生でほぼすべて取り、留学を経て、在学中にライブコマースシステム会社に入社。ライブコマースのノウハウをひと通り学び、同社が2019年にIT一部上場企業にバイアウトされるタイミングで、2020年にテイラーアップ設立。2022年6月、著書『売れる「ライブコマース」入門』を出版。(フォレスト出版)

和田 英男(わだ ひでお)◎テイラーアップ COO。1986年東京生まれ。20代は幻冬舎やファッション雑誌『Free&Easy』など出版業界にて活躍。その後、ベンチャー企業の新規部署立ち上げにて組織構築等を担当。その後、デジタルの知見を高めるためPRを0から学び、外資系家電メーカーや消費財を担当。2020年にテイラーアップ設立し“見られる”“売れる”ライブコマースを確立。他にも大手消費財メーカーやスキンケア/化粧品メーカーに対し講演やライブコマーサー研修などを行う。

Promoted by テイラーアップ | text by 伊藤七ゑ | photographs by 小田駿一 | edit by 木原昌子 (ハイキックス)