キャリア・教育

2022.08.29 07:45

ノーベル賞受賞者が行った中間管理職が社内の大胆な改革を止めない方法

Getty Images


そこでシェクマン博士は、非常に大胆な行動で、ウェルカム・トラスト、ハワードヒューズ医学研究所、マックスプランク協会が資金提供する『eLife』という新しいオープンアクセス誌の初代編集者となったのだ。「私たちの目標は、科学文献の支配権を、商業的な利害関係者や出版物に口を出すプロの編集者から奪い取ることでした」と博士は最近の会話で話してくれた。
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『Nature』『Cell』『Science』と競合するオープンアクセス誌という発想そのものが十分大胆だったが、シェクマン博士はさらに一歩踏み込んだ。『Nature』のような商業誌では、編集者の名前が論文に載らない。もし選ばれた論文がひどいもので、撤回されたとしても、どの編集者の責任を問えばいいのか、誰にもわからないのだ。また、選ばれた論文がすばらしいものであったとしても、特定の編集者がこの特別な研究を選んだという先見性を評価されることもないのだ。

シェクマン博士が説明してくれたように「米国科学アカデミー紀要(PNAS)のような科学協会が運営する雑誌では、すべての論文にその論文を担当した編集者のクレジットが入っているのです。そのクレジットが基本的に読者に、『このジャーナルの基準でこの研究が合格であると断言した、その分野の専門家たちはこの人たちだ』ということを伝えているのです。eLifeやPNASではそうなっていますが、例えば『Nature』ではそうではありません。そこで論文を担当するプロの編集者は、著者には知られていますが、より大きなコミュニティでは匿名にされているのです」

シェクマン博士の革新的なアプローチは、eLifeに必要な説明責任を追加し、同時に編集者にすばらしい作品を選び、それを支持するインセンティブを与えているのだ。「なぜ、『Cell』のような商業的な知名度の高い雑誌のプロの編集者は、そこに自分の名前を載せることを許されないのでしょうか」とシェクマン博士は問いかける。「それは、コントロールのためだと思います。編集者がその評価を受けることが望まれていないのでしょう。私が編集者の1人だったなら、どの論文が掲載されるかを選択したことを認めてもらいたいと思うでしょう」
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シェクマン博士の洞察を、企業の中間管理職という文脈で考えてみよう。もし、中間管理職が予算を達成するだけでなく、大胆なイノベーションを選択したことも評価されるとしたら、あなたの会社ではもっとイノベーションが起こるだろうか? もちろんそのはずだ。そしてイノベーターは、そのアイデアそのものを選択したマネージャーよりも、そのビッグアイデアが評価される可能性がはるかに高いだろう。しかし、もし会社に賢く、大胆で、積極的なアイデアの選別者、つまり自分がそのアイデアを選び、サポートすることで評価を得られるからこそ、大きなイノベーションを推進しようとするマネージャーがいなければ、日の目を見ない何十、何百ものすばらしいアイデアが存在することになるのだ。

『eLife』がスタートしたとき、シェクマン博士は、編集委員会のメンバーとして豪華な顔ぶれを揃えることができた。博士のスター性は採用をスムーズにしたが、それと同じくらい強力な牽引力は、人並み外れた認知されたインパクトを与えるチャンスであったことだ。

forbes.com 原文

翻訳=Akihito Mizukoshi

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