竹内は、業界理解のなかでも特に知っておくべきなのは「収益構造」だと主張する。
「ここを知らずして物は売れません。金属部品加工業において一例を挙げましょう。構造を理解しようとした時、『金属を加工したものを売って儲けている』では解像度が低い。
まず大企業がある製品をつくろうと思った時、誰が図面を書き、どの工場が製造を行うのか、街工場の人たちはどう見積もりを作成するのかというように、粒度の高い理解をしていれば、お客さんと対等に対話ができます」
竹内はArchi Villageの立ち上げでも「収益構造」を理解し、メーカーが、どのステークホルダーの意見を重要視するのかを意識したという。
「メーカーからの反応は、最初から良かったわけではない」と言うが、「自分の意見を語るのではなく、実際にヒアリングした代理店の意見や反応を持ち込むと、『一度話だけでも聞こう』と説明の機会を設けてもらえるようになりました。これを繰り返すうちに『他社がやるなら、うちも導入しなければ』というサイクルが生まれ始めたんです」とも振り返る。
CSとマーケティングの費用はゼロ
竹内が実践するさまざまな営業メソッドを紹介してきたが、後輩育成を見据えた哲学も持っている。
「インサイドセールスとフィールドセールスを分ける企業が多いのですが、その必要はないと思っています。電話でアポを取り、フィールドに出て顧客に売りにいく。この一連を理解して成功と失敗を重ねることは、営業のスキルアップだけでなく、BtoBマーケティングの視点を培うことにも繋がります。
売った後のカスタマーサポート(CS)も営業の守備範囲です。顧客が何に困り、どのようなサポートを欲しているかは営業に必要な情報ですし、それを知ることでプロダクトを改善していく提案もできるようになります。
インサイドセールスとしてキャリアを重ねれば、その肩書きで一生食べていくことはできます。でもフィールドセールスで日頃から、アポ取りから売った後のケアまで経験している人はキャリアの幅が広い。つまり視点が多様で適応力の高い若手も育つのです」
人材を育成するために、「営業の見える化」もぬかりはない。各メンバーの営業を定性的、定量的に評価し、先人の知恵にいつでもアクセスできるようにする。成功確率を地道に高めていくのだ。
数字に基づいた科学的な手法と、圧倒的な業界理解、さらに迅速なスピードで業界を巻き込む行動量。これが事業立ち上げ数カ月でPMFを実現させている要因だ。マーケティング費用もかけることなく顧客獲得ができ、専任のCS人材もいないため、現在の営業利益率は脅威の90%を誇る。
竹内の後を追い、キーエンスから移籍するメンバーもおり、今後は大企業出身の事業推進力のあるメンバーも積極的に採用していく予定だ。スタートアップへの転職で懸念されがちな「給与ダウン」もないという。
キーエンスで鍛え上げた営業力を武器に、スタートアップの常識をさらに覆していく存在になりそうだ。