奇妙なのは冥王星を除外する投票をしたのは天文学者であり、惑星科学者ではなかったことだ。IAUは、地球物理学的な特性を考慮することなく惑星を再定義し、冥王星はサイズが小さいからではなく(米国本土よりも小さい)「軌道周辺から他の天体を排除(Clearing the neighbourhood around its orbit)」の条件を満たしていないことが理由だった。これを巡って議論が起こり、NASAの前長官は、太陽系のすべての「惑星」は小惑星に近づいていると反論した。
さらにIAUは新しい用語「冥王星級天体(Pluto-class object)」も明示的に作った。この用語は惑星科学者の間で一切使われたことがない。
さらに注目すべき点は、冥王星の降格がIAUの権威のためだったことだ。
現在、太陽系内の場所を論じる時「惑星(planet)」の代わりに「世界(world)」が使われている。準惑星や月について話す人はほとんどいない。代わりに「氷の世界(icy worlds)」や「火山の世界(volcanic worlds)」などという用語が散見される。
多くの人が忘れがちなのは、なぜ惑星の定義が2006年に再検討されなくてはならなかったかという点だ。本当の理由は発見された2003 UB313と呼ばれる天体だ。当初の愛称は「ゼナ(Xena)」後に「エリス(Eris)」と改名された。
通常、エリスは太陽の楕円軌道上で冥王星より3倍遠くに位置しているが、大きさは冥王星よりごくわずかに小さいだけだ。実は2006年当時は冥王星より大きいと考えられており、エリスはIAUの会議で正式に惑星の地位を獲得すると考えられていた。
しかし、他にもいくつか冥王星と同じくらいのサイズと思われる候補天体(後にMakemake、HaumeaおよびSednaと命名された)が21世紀初めに発見され、IAUは問題があるのではないかと考えた。もし冥王星が惑星なら、エリスをはじめとする他の天体も惑星になる。惑星が10個も15個もあってもいいのだろうか? 進化するテクノロジーと新しい望遠鏡があれば、惑星は50や100になるかもしれない。
こうして冥王星は降格させられた……数を少なく保つために。おそらくそのとおりだが、冥王星を含むこれらの天体のすべてがカイパーベルトに属していることも事実だ。カイパーベルトとは、海王星の軌道より遠くにある氷のような物体が密集した円盤状の領域だ。それらの軌道はかなり偏心している。