石倉氏は「東北大学では、東北大学発ベンチャー創出のために、1:アントレプレナーシップ育成(起業文化の醸成やアントレ教育)、2:事業性検証支援(起業前の準備資金を提供するギャップファンド・BIP)、3:ベンチャーへの投資(東北大学ベンチャーパートナーズが起業時・起業後の成長資金を提供)というシームレスなベンチャー支援システムを構築・運営しています。
さらに東北大学は、このベンチャー支援システムの広域展開を始めています。東北7県の国立大学等でみちのくアカデミア発スタートアップ創出プラットフォームを形成し、みちのくギャップファンドの運営(2021年度設置)などを通じて、大学発スタートアップ・ベンチャー創出を加速していきます」と、「学」の立場による地域のスタートアップ・エコシステム形成への貢献について語った。
次に、民間組織の取り組みを見てみよう。
ビジネス・DX・金融のプロフェッショナルファームであり、ベンチャーキャピタルの顔も持つスパークル、地方企業の立ち位置を変えるための取り組みを行うMAKOTO Prime、コワーキングスペースやスタジオ等を備えた複合施設であるINTILAQ東北イノベーションセンター、起業家万博・起業家甲子園の東北地区予選であるピッチコンテストSPARK! TOHOKU Startup Pitchの開催、東北経済連合会 東経連ビジネスセンターの専門家チームによるハンズオン支援など、さまざまな角度からスタートアップの成長を加速させる組織が集まっている。
長年東北の起業家を支援しているMAKOTO Prime代表取締役の竹井智宏氏によると、自身が東北での起業家支援を開始した2007年を思い返した際、当時東北では日本アジア投資が仙台支店を閉鎖し、独立系VCとしては東北イノベーションキャピタル、フューチャーベンチャーキャピタルが活動するのみであり、首都圏VCからの投資も少なかったそうだ。
しかし、当時起業直後のSpiber社が日本有数のVCであるJAFCOから5億円調達するなど、東北からのユニコーン輩出に繋がる投資例もあったという。
その後、東日本大震災を迎え、2012年に大和企業投資が復興支援ファンドを設立。一部をスタートアップ投資に振り向けていたが、この時期の東北には社会インパクトを最優先とした起業家が非常に多く、社会的インパクトと経済的インパクトを両立したスタートアップは少ない状況だったということだ。
こうした経緯の中、注目したい企業がある。次世代の東北をつくる組織として産業界・スタートアップと共に新しい世界の経済循環をつくる活動をしているスパークルだ。
スパークルが投資活動をスタートした2015年以降の状況について、どのような実感を持っているのかスパークル代表取締役の福留秀基氏に伺うと、「私達も2015年から投資活動をスタートしましたが、その時期頃から近年は質の高いスタートアップも増え、それと前後して域内外のVC投資も活発になってきたと感じています。
私達のシード投資した学生起業家が数億円の調達を実現するなど、これまで無かったような潮流も作れていると感じていますし、海外からの調達を実現する投資先も出て来ました。最近、東北起業家コミュニティの中では、上場を目指すと公言する起業家が珍しくなくなってきています」と、ベンチャーキャピタルから見ても魅力的なスタートアップが増えてきているという変化を語った。
福留氏はまた、実証フィールドの豊富さも東北の特徴だという。「東京・大阪から新幹線・飛行機で1時間半という距離感にもかかわらず、防災を中心とした経済特区やエイジングケアのスマートシティ、ドローン・ロボットの国家プロジェクト拠点など、ディープテックからソーシャルセクターの方々が移住・進出するに値する価値があります。
最近では宇宙・Web3等様々なスタートアップが良質なコミュニティーと手厚い支援によって移住を検討いただいたり、既に登記いただいていたりしています。この流れから、更に東北のスタートアップ・エコシステムの国際化を一気に図るべく、震災復興でご縁を頂いたイスラエルから、彼らの農業国からの転身とネットワーク構築術を含めて東北をサポートいただいています。
これからは東北のスタートアップエコシステムのさらなる活性化を行いつつ、スタートアップや東北以外の地域の皆さんと連携して、地域分権の時代をご一緒に作っていければと思います」
この言葉から、実証実験の地としても新たな可能性の創出に意欲的に取り組む姿勢がうかがえる。
また、先のイスラエルからのサポートに関しては、「東北・イスラエルスタートアップ グローバルチャレンジプログラム」という形で実施されている。