「管理職が逆ロールモデル」目指すべき人物がいない不幸な組織で起こること

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さらには、こんな末期症状のケースもあります。

「上ばかり見て仕事をしていて、部下のことは都合の良いコマぐらいにしか考えていない」

「手柄は自分、失敗は部下のせい」

「上にはヘコヘコしているのに、下には威張り散らしてストレスを発散している」

上司としての本来の役割が認識されていないことや、そんな上司をそのままにしている組織への不信感が、社員のやる気を下げていることに気づくべきです。

職場におけるロールモデルの重要性を認識する


人が社会に出て新しい行動様式を身につける際、単に自分がやってみるだけでなく、そのモデルとなる存在「ロール(役割)モデル」が重要になります。

先輩に付いて営業のやり方を覚えたり、顧客との会話が上手な人のやりとりを見て真似て自分のものにしていったり。多くのベンチャー企業の経営者が、スティーブ・ジョブズ氏や松下幸之助氏などに関する本を読んだりするのもまた、ロールモデルを知る手段として役立てている側面があります。とはいえ、一番影響があるのは身近にいる先輩たちです。「3年後、5年後、10年後、自分はこうなるんだ」「係長になると、課長になると、こんな感じになるんだ」と、自分の未来を想像するために、先輩たちを観察します。

心理学者のアルバート・バンデューラ氏は、人間が社会的行動を習得するには、他者の行動の「モデリング(観察学習)」が不可欠だと説きました。だからこそ、会社にロールモデルとしての魅力的な管理職がいない場合、若手のメンバーは自分の幸せな未来を描くことが難しくなるのです。

近年、昇進にあまり興味がないという社員が増えていると言います。働くことへの価値観の変化などもあるでしょうが、1つには、昇進した管理職の姿にあまり魅力を感じられないこともありそうです。職場に魅力的な上司がいない。めざすべきロールモデルがいない。そのような組織に、人は居続けるでしょうか?

新入社員の早期退職問題でよく取り上げられるものに「リアリティ・ショック」があります。「リアリティ・ショック」とは、心理学者のエドガー・シャイン氏によると「自分の期待や夢と、組織での仕事や組織への所属の実際とのギャップにはじめて出会うことから生じるショック」を意味します。

その「リアリティ・ショック」が、組織へのコミットメントや職場でのモチベーションの低下、新人の離職や欠勤の増加を引き起こすことが、多くの研究でも明らかになっています。そのような研究の中では、「リアリティ・ショックは上司への信頼感を低下させる」(経営学者の小川憲彦氏による2005年の論文)ことも示されています。

若手社員に対して、上司の存在が果たす役割の大きさがわかります。


こうして社員は、やる気を失っていく ~リーダーのための「人が自ら動く組織心理」
(松岡保昌著、日本実業出版社)

編集=安井克至

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