経済・社会

2022.08.27 08:30

「局地的な核戦争でも数十億人死亡」 すすの影響で地球規模の飢餓に

Roberts Vicups / Shutterstock.com

米国とロシアの全面核戦争になった場合、地球規模の飢饉が生じて50億人あまりが死亡するおそれがあるとの研究結果をラトガース大学などのチームがまとめた。より規模の小さい局地的な核戦争でも数十億人が餓死する可能性があるという。

ロシアのウクライナ侵攻にからみ核保有国間の緊張が高まるなか、実際の核戦争に発展すれば広範な影響がおよびうることがあらためて示された。

科学誌ネイチャー・フードに掲載された査読済み論文によると、研究チームはインド・パキスタン間の5つの核戦争シナリオと米ロ間の核戦争シナリオについて、気候モデルをもとに農業生産や貿易への影響を分析した。いずれの場合も、核攻撃の応酬で大気中に放出されるすすによって日光が遮られ、気温が下がることで、農作物生産が壊滅的なダメージを受けることが明らかになった。

米国とロシアによる大規模な核戦争というもっとも極端なシナリオでは、農業生産の激減によって2年以内に地球の75%が飢餓に陥る。免れる国はオーストラリアやアフリカと南米の数カ国などごくわずかだという。また、印パ間のより小規模な核戦争でも2年以内に20億人超が飢餓で死亡するという試算結果になった。

農作物生産の落ち込みがもっとも深刻になるのは中・高緯度の国々で、米国やロシアといった農作物輸出大国も含まれる。こうした生産減少は輸出規制につながる可能性が高く、その結果、アフリカや中東の輸入依存国は非常に苦しい状態に追い込まれそうだという。

家畜の飼料にしていた農作物を食用に振り向けたり、廃棄される食品をなくしたりするといった方策は、小規模な核戦争の直後には多少は有用かもしれないが、大規模な核戦争後にはほとんど役に立たないとみられている。

今回の研究は、もっぱら生存に必要なカロリーと、大気中に放出されるすすの影響のみに注目したものとなっている。カロリー摂取量は人間が必要とする栄養のごく一部にすぎないため、今後の研究では人間の健康に必須のたんぱく質や微量栄養素への影響も考慮する必要があると研究チームは述べている。

また、核戦争の結果は「核の冬」を招くことにとどまらない。たとえば、核爆発によって大気が加熱されることで、オゾン層が破壊され、地表に降り注ぐ紫外線の量が増えるおそれもあれば、広範なエリアが放射能で汚染されて、食品を生産するのに重要なインフラや製品が使えなくなることも予想される。これらの影響も今後の検討課題に挙げられている。

チームは、核の冬でも機能するように農業システムを変えることは可能かもしれないが、このモデルで大量の死者が出ると予想された2年以内にそれを実現することは困難だろうと指摘している。

forbes.com 原文

編集=江戸伸禎

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