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2022.08.26 07:00

パーキンソン病を早期発見できる、迅速で安価なバイオマーカー

Kateryna Kon / Shutterstock.com

パーキンソン病は進行性の神経変性疾患で、脳に異常が生じ、手足の震えや筋肉のこわばりのほか、体の動きをうまく制御できなくなったり、運動機能やバランスが低下したりといった症状を引き起こす。

発症は60歳前後が多いが、早い人は40代や50代で発症する。40歳以下の場合は若年性パーキンソン病と呼ばれ、全体のおよそ10%を占める。

パーキンソン病では、大脳基底核と呼ばれる、脳領域の奥にある神経細胞群に異常が見られる。これらの神経細胞は、ドーパミンの分泌に関係しており、身体が機能するのに必要な情報の伝達を司っている。

現在パーキンソン病の治療には、ドーパミンを補充する薬物治療が行われており、吐き気の軽減に効果を発揮している。現時点では、脳疾患であるパーキンソン病を完治させる治療法は見つかっていない。重要なのは、早期に発見して治療を始めることだ。このたび、早期発見に役立つ可能性を持つ、診断ツールに関する新たな知見が明らかになった。

パーキンソン病の早期発見


バイオマーカーは、疾患を持つ患者のステージを特定するための診断ツールとして使われている。神戸大学と広島大学の研究チームはこのたび、患者の血清を用いて初期のパーキンソン病を迅速かつ安価に検出できるバイオマーカーを開発した。

このテストでは、「シトクロムP450」と呼ばれる代謝酵素の蛍光値を測定する。シトクロムP450は、薬物など生体異物の解毒や細胞代謝、ホメオスタシス(体内環境を一定範囲に保つ働き)に関して重要な役割をもつ酵素の総称だ(Manikandan et al., 2018)。

研究チームは、パーキンソン病の有無によって、体内のP450の発現量が変化することを発見した。この変化が、さまざまな生命活動を行うために不可欠な、代謝物質の質と量の両方に影響を与えると推測される。今回の研究では、健常者とパーキンソン病患者に見られる一定のP450発現パターンに違いがあることが示された。

P450蛍光阻害アッセイ法


研究チームは、P450に関連する代謝物質の質と量の変化を検出するため、阻害アッセイ法という方法を実施して成功した。この方法では、健康な人やパーキンソン病患者から採取した血清サンプルと、12種類のP450、蛍光性基質をそれぞれ混合して反応を誘発した。その結果、健常者グループとパーキンソン病患者グループでは、蛍光物質の生じ方に違いがあることがわかった。具体的には、パーキンソン病患者のサンプルでは蛍光物質が阻害されたのだ。

患者には、蛍光性基質と反応しないP450関連の代謝物質があり、その結果、阻害が起きていた。この新しいリキッド・バイオプシー技術(血液や尿、唾液などの体液を使って病気の診断や検査を行う技術で、患者への負担が少ない)を用いれば、パーキンソン病の人と、パーキンソン病でない人を区別することができる。

同じテストは、パーキンソン病のモデルラットと、他の神経変性疾患ならびに炎症性疾患をもつ患者に対しても行われた。その結果、パーキンソン病モデルラット、およびヒトにおけるパーキンソン病患者のいずれについても、85%から88%の精度で、健常者と患者を区別することができた。

結論


世界では数えきれないほど多くの人がパーキンソン病で苦しんでいる。パーキンソン病は年齢とともに発症率が上がることから、発症後の早い段階で、迅速かつ効果的な治療を施し、悪化を防ぐことが極めて重要だ。いまのところ、パーキンソン病を完治させる手立てはない。ならば、進行を抑えるためにも早期発見が不可欠となる。

forbes.com 原文

翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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