スキンパックで見えてくる未来
スーパーマーケットに於ける精肉の販売価格は、恐らく破棄する分もあらかじめ見込んで設定されている。その結果、食品ロスとなる破棄費用を、実は買物客が支払っているのである。
現在、グローバル・アジェンダとしての食品ロス問題。総務省によると、年間570万トン破棄されている。これは、国民一人当たり、年間約45キロを廃棄している事になる。さらに、事業系食品ロスは、309万トン。実に54%が、食べられる事なく破棄されているのが現状。「20億人の人口増加が見込まれる未来、野放図に畜産産業を広げすぎて良いものか?」と疑問を呈する秦は、先取性とアイディアに溢れている。
「屠畜場の横で、スキンパックしたらどうかな? と閃きました。レストランでの熟成肉は、一定の温度で保管したお肉の表面に付着したカビを削ぎ落として食べる乾燥熟成。一方、スキンパックは、肉そのものが変化するウエット熟成。解体したお肉を一つも取りこぼさず全て使いきる事は、SDGsの時代の食べ方になるのではないでしょうか?」
コロナ禍で変化した生活スタイルや、女性の社会進出で増えた共働きに於ける日々の食生活。田中は「毎日スーパーで買物をしなくても、精肉をまとめ買いし、2週間後の熟成されたお肉を楽しめるのがスキンパックです。輸出にも適していると確信しているので、近い将来、屠畜場で解体した美味しい日本の和牛を世界に輸出したいですね」と語る。
紆余曲折した開発過程の苦労も。「いかに日本市場にマッチするかを意識しました。思い通りの追従性が出せず、ドリップが生じる失敗があったり。また、発泡スチロール素材のトレイは、低温で使わないといけないので、最終的には、耐熱加工と密着性が改善点でした」。高分子化学に於いて、ポリマー同士を網目のように繋ぎ、連結し、物理的&化学的性質へと変化させる反応を「架橋」と呼び、特許も取得。これがスキンパックの強みとなった。「この機能性バリアフィルム技術を使って、最も社会貢献出来る分野が精肉でしたので、精肉分野を開拓したのです」と田中。
一号機を売ってから、30年以上経過してさらなる深化を図る東京食品機械の秦と、マーケットに対して裾野を広げて活躍する住友ベークライトの田中による真摯な取り組みは、これまでも今後も続く。結局、SDGsって環境に良いだけじゃない。自分達にとって、豊かな食生活を通して、文化や社会を取り戻すきっかけとなる素敵なことなのだ。