筆者自身も、39歳でそれまで勤めていた大手出版社を退職して、新婚の妻とともにハワイに移住した新一世の1人。4歳の娘がいるが、彼女は「新二世」というわけだ。
ハワイで情報誌の編集長を務めた職業柄もあり、これまでの13年間で、500人以上のハワイ移住者=「新一世」にインタビューしてきた。そのなかで浮かび上がってきたハワイ移住者に共通する特徴について今回は紹介したい。そこには、3つの「きり」がある。
考えれば不利な条件ばかりの「移住」
ハワイに限らず海外への移住には「滞在ビザ」という大きな壁が立ちはだかる。先進国になればなるほどビザの取得条件は厳しくなるのが一般的だが、そのなかでも、ハワイ州のあるアメリカは比較的厳しいほうだろう。ビザの種類だけでも20種類以上あり、その滞在(入国)目的によって細かく分かれている。
よくビザの発行を却下されたという話を聞くが、却下理由の多くが滞在目的にきちんと合致したビザを申請していないことだ。それほど米国に移住を希望する人が多く、目的別に細かく分けて審査しなくてはならない事情があるわけだ。
なかには「ビザ取得を待っている間、日本で就職するわけにもいかず宅配便のアルバイトでしのいだ」という建築家や、「アメリカ生まれの子どもは現地の学校に入れたが、親のビザが取れずESTAでの滞在期限ぎりぎりの3カ月ごとに父親と母親が交代でハワイに入った」という投資家もいた。このように滞在ビザの取得には、みなそれぞれに事情があり、苦労している。
ハワイにはプール付きのコンドミニアムも多い
さて、「きり」の話だ。このビザ取得問題を代表的なものとして、海外に生活の拠点を移そうとなれば、さまざまな問題が浮上してくる。
日本のマンションはどうする、子どもの学校はどうなる、親の介護や相続問題は、仕事は海外でもこなせるのか、海外での家はどうする、日本の銀行口座はどうなる、移住先の外国で銀行口座は必要か、資金の移動はどうやればいいのか、これまでのクレジットカードは使えるのか、現地でアジア人差別はないか、などなど。浮かぶわ浮かぶわ、どこまでも続く。
そうなのだ。海外への移住などよくよく考えてみれば、困難だらけなのである。考えれば、わかってしまう。このまま日本に暮らしたほうが、損得勘定では圧倒的に得なのだ。
筆者にハワイへの移住の相談をしてきた某大手新聞社の社員がいた。40代前半、記者としての部署もいくつかまわり、将来の社内の出世ルートも見えてきた。記事執筆の経験を活かし、海外で仕事を得て移住をしたい。小学校入学前の子ども2人の教育を海外で受けさせたい。そんな思いを彼は巡らせていた。
ちょうど、ハワイでフリーペーパーの編集職で空きがあった。絶好のタイミングと言えた。でも、彼はインテリだった。物事を少し考え過ぎた。いろいろなものを天秤にかけ、悩んでしまった。
「もう少し考えます」が、その時の彼の結論だった。そのまま考え続けて数年が経ってしまった。仕事が忙しくなると移住のことなど忘れる。そしてたまにふと思い出す。そのうち、子どもも大きくなり、日本の教育に馴染んで海外に飛び出すタイミングがなくなっていく。