それでも水平線のかなたにあるべき島の姿を見つけて航海を無事に終えられたのは、「誰もが互いを信頼し、力を合わせて船を前に進めたから」だった。
そして使命感を何より大切に、クルーとの密度の濃い時間を何度となく経験することで「ONE OCEAN, ONE PEOPLE, ONE CANOE」という考え方は身体化され、旅先で出会う人には“違い”以上に“共通点”が目に入るようになっていった。
地球を慈しむ気持ちを抱き「ホクレア」は航海を続ける
もう1つの興味は、どうして今の時代に計器をはじめ文明の利器を持たないカヌーで海を越えるのか。そこにどのような意味があるのだろうか、というものだ。
「海を見ていると天候が予測でき、うねりを頼りにできれば星の見えない夜でも航行することができます。海は本当に多くのことを教えてくれるのです。
その教えを得るためには、目だけで見ず、5つの感覚や頭脳をもって海とつながる必要があります。自分のなかに自然を取り込むことができなければ、海を越えることはできないのです。
そして『ホクレア』を通して多くの教えと恵みを与えてくれる海とは、酸素を供給してくれる存在です。海から蒸発した水によって雨が降り、私たちを潤してもくれます。かように、太古の昔から地球上のすべての生きものにとって重要な存在なのです。
つまり海が健康でなければ私たちは生きていくことができない。私たちの命は海に大きく依存している。そのことを学び直すべき時代に今はあるのではないか。そう強く感じています」。
先述の問いの答えは“マラマホヌア”という言葉にあるということだ。
高度なテクノロジーが便利で快適な暮らしを可能にしている現代。しかし社会基盤は太古の昔から変わらず自然の営みによって支えられている。
海や自然から遠く離れて暮らしているとその真理を忘れてしまいがちだが、社会に持続可能性を根源的に備えるためにも、“地球を慈しむ気持ち”を多くの人が抱き続けることが重要なのである。
だから、これからも「ホクレア」は航海を続けていくのだろうと、デニスさんは言う。
「復活後の初航海のとき、ハワイには伝統航海術を実践できる人がいませんでした。そこでミクロネシアのサタワル島にいた伝統航海術士のマウ・ピアイルグ氏を招聘したのですが、その際に彼は航海術だけでなく『We are one people』という教えも与えてくれたのです。
曰く、もともと太平洋の島々に暮らす人たちのルーツは大陸にあり、そこから先祖はみんな同じ方法で海に漕ぎ出していった。いわば親戚なのだと。その尊い教えに対する理解を『ホクレア』は航海をするたびに深め、世界に広めているのです」。
この星に1つしかない海を通して、人もまた1つの種であることを伝える「ホクレア」。その次なる航海は来年に予定されている。航路は環太平洋。洋上に浮かぶ島々をつないで1つとし、地球を慈しむ思いを共有する旅であり、日本にも’26年に寄港する予定が立てられている。
本物の伝統航海カヌーや心優しきクルーたちとともに、「We are one people」の神髄に触れられる機会がやってくるのだ。
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(この記事はOceansから転記しております。)