書類上、プーチンは質素な公務員ということになっている。資産公開に関する公的文書には年収14万ドル(約1400万円)、車3台、2軒の小さなアパートとトレーラー、いくつかの駐車場とだけ記されている。だが、彼がこのほかに莫大(ばくだい)な資産を保有していることはまず間違いない。
10年にわたりロシアで暮らしたことのあるアメリカ人投資家ビル・ブラウダーは、人権侵害者を資産凍結によって罰することのできる米国のマグニツキー法制定の立役者だが、彼によればプーチンは、2003年に当時石油王と呼ばれていたビリオネアのミハイル・ホドルコフスキーを逮捕した後、オリガルヒたちとの間である協定を結んだのだという。
「資産の50%を差し出せば、残りの50%は保有することを認めようというのです」(ブラウダー)
プーチンは、従わなければ全財産を没収して投獄すると脅したというのだ。これによって、プーチンの正味資産は17年時点で2000億ドルに上っていたはずだとブラウダーは言う。もしその通りなら、プーチンは世界一の金持ちの座を争えることになる。
とはいえ、ブラウダーがその証拠を提示できるわけではない。ただ、プーチンがボリス・エリツィン時代のオリガルヒたちに資産をロシアに売却させ、自らの権力を強化した証拠は残っている。
05年に、ロマン・アブラモビッチは、石油会社シブネフチの持ち株をすべて政府系ガス会社ガスプロムに売却して現金131億ドルを手にした。これによりプーチンはこの国の石油・ガス資産への影響力を強めた。そして13年には、ミハイル・フリードマンとゲルマン・ハンなどのオリガルヒたちが石油会社TNK-BPを国営石油会社ロスネフチに560億ドルで売却した。
プーチン大統領が、自らに忠誠を誓う実業家に政府との契約や事業の経営権を与え、その対価として利益の一部を提供させ、巨万の富を築いた可能性は極めて高い。04年、ガスプロムは主力資産をプーチンの息がかかった組織に破格の値段で売却し始めた。
ウラジーミル・プーチンとアルカディ・ローテンベルク(左から3番目)は幼なじみ。プーチンは、ローテンベルクらが立ち上げた柔道クラブ「ヤワラ・ネヴァ」の名誉会長を務める。
例えば保険大手のソガズを買収したユーリ・コヴァルチュクなどもそうだ。彼はプーチンの古くからの友人であり、プーチンが率いる排他的な別荘地の社交クラブ「オーゼロ」の一員だ。そして、ゲンナディ・ティムチェンコや、アルカディとボリスのローテンベルク兄弟と並んで、プーチン政権とのつながりのおかげで財を成した、少なくとも6人のロシア人ビリオネアのひとりなのだ。