この香水が登場する以前の香水はバラやスミレ、オレンジの花といった実際の花の香りを表現したものであり、ココにとって退屈なものでしかありませんでした。そこで、ココは革新的な香水を作りたいと調香師のエルネスト・ボーのもとを訪れ、彼女のパーソナリティを表現した抽象的でユニークな香りを依頼します。
調香作りに取り掛かったボーは「香水の都」として知られていた南仏グラース産のジャスミン、ローズ・ドゥ・メ、レユニオン島のベチバー、コモロ産のイランイランなどの異国情緒溢れる素材を混合します。これらの香りはあまりにも濃厚だったため、ボーは香水として初めて合成香料アルデヒドを3種類加えました。それにより、香りに強さや奥行き、持続性が生まれたのです。
ボーは出来上がった試作品に数字を振ってココに提示し、彼女は「No.5」と書かれたボトルを選びました。それがそのまま商品名となったのです。それまで、香水の名前は装飾過多な物が多く、この風習を嫌ったココはシンプルな名前を選んだといいます。
また、ボトルデザインにも革新的な試みがおこなわれました。従来の香水のボトルは凝った形が主流でしたが、ココは男性用旅行化粧品からヒントを得た、シンプルな角型の容器を採用したのです。
このように、シャネルNo.5は、従来の常識に囚われない試みによって完成した女性のための革新的な香水であったといえます。
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