俺が君を守ってやる…。12歳の少年に見る父性丨映画「スタンド・バイ・ミー」

映画「スタンド・バイ・ミー」より イラスト=大野左紀子


他の仲間より一足早く大人に


4人の並びを見ると、身体的にもクリスが他3人よりやや勝っていることが見てとれる。ゴーディはヒョロヒョロと華奢であり、近視のテディはよく片耳が聞こえず、バーンは太っていて動作が遅れがちだ。そんな中で、伸び伸びした四肢に適度な筋肉のついたクリスの体型には、既にリーダーの雰囲気が滲み出ている。
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同級生の悪ガキたちの無謀さ、無邪気さを共有しつつ、この中では自分がチームワークを保ち他の3人を牽引する立場にあることを、クリスは無意識のうちに自覚している。もともと、目の前で悲しんだり争ったりしている人を放ってはおけない性質だ。

それはさまざまな場面で、相手の肩をぶっきらぼうに、時に優しく抱いたり、軽く叩いたりする親和的な仕草にも現れている。たとえそこに言葉が伴っていない場合でも、それらの仕草は「大丈夫だ、気にするな、俺がついてる」という彼の気持ちを雄弁に物語る。

後に一念発起して進学し苦労して弁護士になったクリスが、たまたま遭遇した他人の喧嘩を止めようとしたことで、刺されて命を落とすことになるのは、少年時代からのこうしたメンタリティが、不幸にも裏目に出た結果だろう。
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もちろんクリス自身も12歳当時は、家庭の評判が悪いことに悩み、自分の将来を半ば諦めかけていた。停学処分に至った学校でのトラブルに教師の”不正”を発見した時の怒りと悔しさを、涙ながらにゴーディに打ち明ける場面では、それまでの大人っぽい頼もしさとは裏腹の、子どもの苦悩と寄るべなさが溢れている。

4人の中でクリスほど、自分たちが弱く無力な存在であることを、身に沁みて知っている者はいないだろう。それゆえ、他の仲間より一足早く大人になってゆく彼が、精一杯発揮する父性に胸を衝かれるのだ。

連載:シネマの男〜父なき時代のファーザーシップ
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文=大野左紀子

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