異文化とローカライズ 「ビジネス+文化のデザイナー」の視点

モバイルクルーズ代表取締役 / De-Tales ltd.ディレクターの安西洋之


中道:僕も中学生の子供が2人いて、イギリスの学校に通わせています。小学校の5年生と6年生で渡英しましたが、2年ほどで自己表現の仕方もガラッと変わってきたと感じました。そういう姿を目の当たりにすると、人格形成のためのプロセスは海外で育てた方がいいのではないかと思ってしまいます。

安西さんはやはり、ミラノをはじめとするイタリアの良さを感じますか。

安西:実はイタリアは嫌いだったんですよ。大学ではフランス文学科で、社会人になってからはイギリスやドイツとの仕事をしていたので、「イタリアはとんでもない国」くらいに考えていました。実際にイタリアを訪れた際に「汚い街だ」と感じ、いい印象はありませんでした。

トリノに住み始めて半年ほどはイヤで仕方ありませんでしたが、ビールを飲みながら街をぶらぶらとしていたら、「バロックはこういうことかな」とふと感じた瞬間がありました。

トリノはバロックの街で、毎日その街並みを見ていると、バロックの様式はつくり出そうとしたのではなく、生活の中から自然と生まれたものではないかと理解しました。

僕自身は建築や美術を勉強していたわけではありませんでしたが、あるカーデザイナーに僕の考えを伝えたところを、「その解釈は正しい」と言ってもらえました。そこからイタリアの魅力にずぶずぶとはまっていきました。

中道:はじめは嫌いだったところから、きっかけがつかめると、見えなかったものが見えてくるようになるパターンはありますよね。

安西:そうですね。それともう一つ、英米といったアングロサクソンの見方や意見が世界で主流のなか、アングロサクソン以外の見方を持つ強みも感じるようになりました。もちろん、フランスやドイツや中国でも当てはまりますが、日本語と英語以外の言語の見方を持つ強みがわかり始めてから、イタリアをさらに面白く思えるようになりました。



中道:なるほど。素晴らしいポイントですね。

安西:日本は英語やドイツの影響が大きいですが、南ヨーロッパにはより柔らかい考え方がありますよね。例えば「コンセプト」という言葉は英語で、日本のイメージでは考え方の“枠”という固い印象になると思います。それがイタリア語における「コンセプト」だと、いろんな考え方を受け入れるようなイメージがあります。

カチッとしているより、柔らかいイメージですよね。そういった考え方も世界での主流にまではならなくても、より注目されるようになるなど、バランスが取れるといいですね。

中道:僕はリーバイスに長く在籍し、イタリアのファッション業界の関係者と接する機会も多くありましたが、どこか日本と似ている考え方を感じたこともあります。
次ページ > 曖昧さをうまくビジネスにしているのはイタリア

文=小谷紘友 編集=鈴木奈央

タグ:

連載

VISION TO THE FUTURE

ForbesBrandVoice

人気記事