ポルトのカフェで考えた、通いたくなる店の条件

ポルトのドウロ川に架かるドン・ルイス1世橋

行きつけの床屋で襟足をカットしてもらっている時、店主から尋ねられた。「これから小さな店が生き残るためには、何が必要なのでしょうね」。

その床屋は、最近ではなかなか予約が取れないほど多くの常連客を抱えており、経営的に問題はなさそうである。質問の真意をはかりかねたが、しばらく会話を続けてみると、どうやら自店というよりも、知人友人の店を含めた地域業界全体のことを本気で心配しているらしいことがわかってきた。

こちらも真剣に答えねばならない。髪を切ってもらいながら考えた。脳裏に浮かんだのは、今年6月に滞在したポルトガル第二の都市、ポルトの光景であった。

ポルトのカフェはなぜ人気なのか


平日の昼下がり。カメラ片手にぶらぶらしていると、老舗感のあるカフェを見つけた。外からも見えるガラスケースには、ポルトガル菓子がぎっしりと並んでいる。今年の欧州はとにかく暑く、歩くだけで疲れる。小休止しようと、中に入った。

椅子に座って、エスプレッソダブルとパステル・デ・ナタ(エッグタルト)をオーダーした。パステル・デ・ナタは通常の1.5倍はあろうかという大きさで、食べ応えがある。サクサクとしたパイ生地の食感と、中のふんわりとしたクリームの食感の違いも良い。朝から何も食べていなかったこともあり、一気に平らげた。


ガラスケースに並ぶパステル・デ・ナタ

一息ついて、苦いエスプレッソをちびちび飲みながら、周囲を見渡した。短髪の男性スタッフが、カウンターの中とテーブルを忙しなく行き来している。一方、家族連れや高齢者らは、ゆっくりとエスプレッソを楽しんでいる。「ああ、こういう店はなくならないだろうな」と思った。

ポルトガル人は、日に何度もカフェに行く。さっとエスプレッソを飲んで出ていく人もいれば、家族や友人らとおしゃべりに興じる人もいる。いずれにしても、生活の中にカフェがある。

マーケティングに取り組む上でなくてはならないのが、「ペルソナ」と呼ばれる、ターゲットとなる架空の顧客の人物像だ。事業者には、商品やサービスによってペルソナのニーズを満たすことが求められる。

ポルトガルのカフェは、地元の人々のライフスタイルに深く食い込んでいる。彼らのニーズをしっかり満たしているわけだ。ローカルのカフェはどこも気軽に利用できる価格帯だが、LTV(Life Time Value=顧客生涯価値)を考慮すると、持続可能なビジネスモデルといえよう。
次ページ > 上手なマーケティングとは?

文・写真=田中森士

ForbesBrandVoice

人気記事