ビジネス

2022.08.16 16:30

理屈を通し、先を読む。日本取引所グループCEOの市場に生きる信念


営業は向かなかった。配属先の営業部である投信の販売を命じられたが、「お客様のためになる商品だという自信がない」と反発。「誰に給料をもらっているのか」と怒る上司に、「会社です。でも会社は誰にお金をもらっているのか」と返した。この件の3カ月後に厄介払いで債券部に異動した。
advertisement

債券は金利と価格が計算で出てくる理屈の世界で、性に合っていた。債券ディーラーとして花開いた清田が重視したのはファンダメンタルズだ。90年8月、フセインがクウェートに侵攻して、日銀が予防的引き締めで金利を上げた。9月の新規国債は7.9%。債券部長の清田は、「有り金はたいて長期債を買ってもらえ」と部下たちに指示した。

「ファンダメンタルズを考えると、今世紀中はもう金利は上がらないと読んでいました。結局、1カ月で金利は下がって、その後、20世紀中どころか21世紀に入っても金利は下がり続けた。あのとき買ったお客様には喜んでもらえたはず。大きな流れを読まなきゃダメなんです」

大和証券で会長を務めた後、東証に。現在はJPXのトップとして、「資本市場のグローバル化は避けられず、取引所も海外との競争の時代に入る」と大局を語る。
advertisement

今回の市場再編はグローバルで競争力を高める戦略のひとつだが、ほかにも課題は山積み。例えばデリバティブ取引のテコ入れは急務だろう。政府が「総合取引所」構想を打ち出したのは07年。しかし、JPXによる東京商品取引所買収は19年で、この間、海外がデリバティブ取引を10倍にしたのに対して、日本は半減した。

「日本はGDPや株式市場規模で世界3位なのに、デリバティブは17位。出遅れは確かですが、伸びしろは十分にあります。大阪取引所と統合して金融と商品をひとつのアカウントで取引できるようになれば、デリバティブはもっと伸びる。調整は必要ですが、ぜひ実現させたい」

これもおそらく方向性は正しい。あとはどれだけスピードアップできるか。日本の金融市場の浮沈は、清田の手腕にかかっている。


きよた・あきら◎1969年早稲田大学政治経済学部卒業後、大和証券(現・大和証券グループ本社)入社。74年米ワシントン大学経営学修士取得後、債券部での活躍を経て以降、要職を歴任。2008年同社取締役会長、13年に東京証券取引所の社長となり、15年6月から現職。

文=村上 敬 写真=苅部太郎

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事