取引開始前のセレモニー。JPXを率いる清田瞭はテープカットを行いつつ、寄り付きの株価を映すモニターが気になって仕方がなかった。20年10月1日、東証はシステム障害で終日取引停止に陥った。その記憶がまだ鮮明だったからだ。
「テストは徹底して準備万全でした。しかし、場が開いたときに銘柄の振り分けがうまくいかなかったら……。祈るような気持ちでしたね」
結局、システム障害はなし。清田は、引け後に各市場の指数が無事表示されたのを見て、ようやく緊張を解いたという。
今回の市場再編については、“骨抜き”批判が根強い。プライムには流通株式時価総額100億円以上などの基準が設けられたが、それを満たさない企業も適合計画の提出で残留できる経過措置が設けられ、経過措置期間は今後検討されることになる。結果、一部上場2177社のうち、未達の295社を含む1839社がプライムに残留した(4月開場時)。
新市場区分開始にあたっての懸念材料は、システム障害よりこちらだったのではないか。そう問うと、清田は穏やかに応じた。
「問答無用で切るのは現実的ではありません。再編の目的は、企業価値向上を忘れている一部上場企業に目を覚ましていただくこと。現時点で適合していなくても、適合計画を求めることで企業努力をしていただける。そうした発信は続けてきたつもりです」
焦点の経過措置の期限についてはどうか。
「計画書を出した295社の扱いをどうするか。これは今後の最大の注目点なので、絶対にやらなくてはいけない。秋以降に有識者会議が設立される予定で、今後結論を出していただくことになるでしょう」
上場企業、投資家などと落としどころを探りながら進めていくのは気苦労も多そうだが、清田が悠然としているように見えるのは、改革の方向性は間違えていないという自信があるからだろう。
清田が金融業界に飛び込んだのは偶然だった。就活では、叔父が会長を務める東京ガスを受けた。面接当日、2時間早く着くと、向かいに大和証券があった。ふらっと入ると、「当時は証券大不況。『優が30個』と言ったら、大歓迎されてその場で役員面接になった」。