そこから5年ほどの月日を経て、木村さんのみりんは世界へ羽ばたくことになる。
今年、史上初の快挙を成し遂げたMe。その特徴は、まず原料へのこだわりにある。みりんの原料となるのは、餅米と米麹、そして焼酎か醸造用アルコールの3つだけだ。一般的な料理用のみりんは、焼酎ではなく海外から輸入した醸造用アルコールを使用することが常で、また糖類等で甘みを添加する場合も多いという。しかしMeは国産の焼酎を贅沢に使用。餅米も米麹も、もちろん国産で、それ以外の原料は一切使用していない。
こだわりの原料から生まれたMeは、熱を加えることなく瓶詰めされ、出荷される。そこにも、消費者のことを想う木村さんのこだわりがのぞく。
「麹の栄養成分というのは、すごいんです。ビタミン、酵素、ポリフェノール……。これらの栄養素を、わざわざ熱を加えて壊す必要はないと考えました。タンクから生のまま搾って、みりん本来の味と栄養素を楽しんで欲しい。そんな思いから、無濾過生原酒というところにこだわっています。Meを飲むと、疲れが取れやすいとか、よく眠れるようになったという声もいただくんですよ。
あと、外国の人にMeを飲んでもらうと、よく驚かれるんです。『この甘さはどこからきているんだ?』って。Meは砂糖や糖分を一切使用していません。だから、甘さはすべて麹由来なんです」
たしかに、Meをひと口飲むと、その優しくてまろやかな甘さに引き込まれてしまう。それだけの甘みを感じさせてくれるのに、GI値はわずか15ほど。GI値とは食後の血糖値の上昇度を表すもので、この数字が低ければ低いほど、血糖値が急激に上がることを抑制できる。GI値15は、ところてん、ひじきと同じ程度の数値だという。白砂糖ともなれば、GI値は一気に105ほどになるというので、その差は圧倒的だ。
「海外でも梅酒の人気はありますが、梅酒は砂糖を使います。ですので、血糖値を気にされる人はもちろん、美容や健康を意識している人には、特にMeを気に入っていただいています。
Meというネーミングには、真面目なものからダジャレまで、いろいろな意味を込めているんです。その中のひとつには、Meを飲んで、『自分』をいたわって欲しい。自分自身を、自分の健康を意識して飲んで欲しいという思いも込めているんです」
尽きることない豊島屋伝説
そう語る木村さんだが、実はもともと、家業を継ぐ気はなかったという。それもそのはず、お酒は弱いほうで、むしろあまり好きではなかったそうだ。そんな状況で酒屋の社長となり、どうやって仕事にやりがいを見つけたのだろう。酒好きの僕が思わず疑問をぶつけると、実に興味深い話を聞かせてくれた。
「豊島屋って、もともと『居酒屋』という言葉の発祥地だったらしいんです。先ほどお話した通り、初代が灘の酒を売り始めたんですが、その当時はまだ、酒屋でつまみを出す文化がなかったらしいんですね。
そこでうちのご先祖さまが、もっとたくさんお酒を飲んでもらえるように、店先で酒と一緒に豆腐田楽も売り始めたんです。そうすると、お客さんたちがお店(酒屋)に居続けるようになった。そこから『居酒屋』という言葉が生まれたそうなんです」