想像をはるかに超える山小屋体験
雨に降られ、ラストは風も強くなる中でたどり着いた山小屋は、水洗トイレやWiFiなどを備える「海抜一万尺 東洋館」。驚くことに、星のや富士のスタッフが出迎えてくれ、案内された部屋には、冷えた体を温める足湯とホットドリンクが用意されていた。
山小屋といえば、狭さや寒さなど多少の悪条件も我慢するものだが、グラマラス富士登山では2つの個室を貸し切り、独自に布団を運び入れているほか、シャワーのない環境に適したアメニティ、こだわりのコーヒーセットまでを整えている。
さらに想像を超えてくるのが夕食だ。「準備ができました」と呼ばれた先には、クロスが敷かれ、カトラリーがセットされたダイニングテーブル。席につくと、数種のシャルキトリやチーズ、ピクルスなどの前菜がサーブされ、スタッフがワインを開け、グラスに注いでくれた。
メインは、星のや富士の料理長が監修したビーフシチュー。ごろっとした野菜もお肉も食べ応えがあり、ついついワインもすすんでしまう。
すっかり満たされ一息つくと、桃のデザートとプティフール。食後のコーヒまで約2時間にわたるディナーは、登山の疲れを吹き飛ばすどころか、登山中であることを忘れるような食体験だった。
登頂がすべてじゃない
山小屋の朝は早く、4時に起床。暖かく着込んで外へ出ると、強風のなか、目の前に少しずつ朝焼けが広がっていった。星のや富士のある河口湖もくっきり見え、その右手側にある、山中湖が少しずつオレンジ色に染まっていくと、短い間だが、ご来光を望むことができた。
鯨のような形をしているのが山中湖。すっと雲が晴れると、横浜、三浦半島、房総半島までが見通せた
標高約3000mの朝を満喫し、今後の予定を打ち合わせる。山岳専門の天気情報をふまえ、エキスパートである近藤さんの判断で、「山頂へはアタックせず、下山する」と決定した。前日より増す強風の中、さらに険しい道を行くのは不安が大きい。「悔しい」よりも、ほっとした。
下山は、登りより足取りは軽いが、膝に負担がかかる。「歩幅を小さく、自分のスピードで」と近藤さん。しばらくすると寒さも和らぎ、ミスティな空気、ひんやりとした風を心地よく感じた。