あらゆる専門家の声を反映した施設
コパルは山形市の公共施設だが、多くのプロによって成り立っている。例えばアプルスの守さんと美奈子さんは、山形市内でスポーツクラブを運営する傍ら、子どもから高齢者まで幅広いスポーツ振興で地域に貢献。児童発達支援・放課後デイサービスを行っている合同会社ヴォーチェと共に運営を担当している。
──たくさんの企業や団体がコパルを支えているんですね。
美奈子さん:名称にある「シェルター」は、避難場所という意味ではなく企業名なんですよ。コパルは民間企業が設計・運営・管理などを行うPFI事業で、その代表企業である株式会社シェルターがネーミングライツを獲得し、「シェルターインクルーシブプレイス コパル」という名称になりました。
守さん:PFI事業と言うと、建物が出来上がった状態で外部に建物の管理を委託する“箱物事業”が一般的だと思うのですが、その場合、出発地点が不明瞭で指定管理者になったとしても建物を有効活用できないなんてことが多いんですよね。
でも我々の場合は、設計の段階からすべての代表者が同じ机に座り、いろんな議論を交わし合っているので、「設計はすべてお任せします」ということも、「私の仕事は終わったので、はい、さよなら」ということもない。各担当が責任を持って関わり続ける施設なんです。
──実際にどのような議論がありましたか?
美奈子さん:立場によって思いや理想は違うので、施設内の手すりひとつにしても何度も論争を交わしましたね。普通の手すりだけでなく、子どもたちが遊んで楽しめるような手すりもつけたいということで、設計事務所サイドが普通の手すりの下に遊べる手すりを設置する案を出したんです。
そこから「危ない」、「本当に手すりが必要な子もいるから2つ並べるのは問題じゃないか」、「じゃあ遊びの手すりはやめよう」、「いや、遊びも大切かもしれない」、「それなら、普通の手すりとは反対の壁に遊びの手すりを設置しよう」、「やっぱり、手すりが必要な子が来たときに遊んでいる子たちが『どうぞ』と譲れる環境も大事だよね」と、それぞれが納得できる案に到達する。そういう話し合いを何度も重ねてこの施設が出来ています。
上下に2本設置された手すり。はめ込まれた木球を動かして遊べる
──異なる理想を持つ人たちが意見を出し合うことで、あらゆるニーズに応えられるものに近づけることができたんですね。
守さん:私たちにとってもコパルは格別なんですよ。以前、コパルに携わっている方が「普段なら自分の担当外で何が起きようが関係ないけど、コパルには愛着がある。こんな仕事はしたことがない」とおっしゃっていましたね。
美奈子さん:何より建物自体にすごく魅力があるんですよ。曲線が多くて真っ直ぐなところがほとんどないから、入っただけで心の角が取れてしまうみたいな。この建物が発する雰囲気が利用者さんだけでなく私たちにもプラスになっています。こういうことも、箱物事業じゃないからできたことですよね。