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2022.09.01

人的資本へ注力と言われても・・・人の力を開放する必須の着想

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競争や成長に欠かせない原動力は、今や「人」であるという考え方が主流だ。新製品や画期的な技術、未体験のサービス、という勝ちの条件は、人によってもたらされる。人材を金融と同じく資本ととらえ、価値のある希少なリソースとする〈人的資本〉の考え方が求められている。リクルートの津田郁は、長らく、人が企業業績や企業価値を上げる最も重要な要素であることを提唱してきた。人への投資の重要性について、そして人的資本経営について、「危険な思い込みを捨てる」ためのポイントを解説する。


「人的資本」とは「心を持つ資本」


「人的資本」とは、簡単に言えば「人材」。さらにくわしく言うなら「人材が保有する経験や知識・スキル・能力およびイノベーションへの意欲、戦略の遂行能力など」を含め「人的資本」と総称されています。

単なる働き手の人数だけでなく、その人たちの知識・経験・能力にまで注目する考え方です。

下の図に示すとおり、企業はさまざまな資本を活用して事業活動・経営を行っています。その一つである「人的資本」の特徴は「心を持つ資本である」という点にあります。

一律の投資に対し、一律のリターンが返ってくるわけではありません。「人的資本」と言っても対峙するのは人間ですから、働きかけ次第でパフォーマンスが高まることもあれば低下することもあります。そこが人的資本の面白さであり難しさでもあるわけです。

人的資本の図
*国際統合報告評議会(IIRC)の「国際統合報告フレームワーク」(IIRC2013)で示された6つの資本


背景にある4視点──「社会」「経済」「戦略」「世代価値観」


今この人的資本が世界的に注目されている背景には、4つの視点があります。

(1)社会的視点

サステナブル(持続可能)な社会づくりに向け、世界中がコミットメント。「株主至上主義」から、顧客・従業員・サプライヤー・地域社会などすべてのステークホルダーを重視する「ステークホルダー資本主義」へシフトしています。

(2)経済的視点

投資判断の指標が「財務資産」から「非財務資産」へ。人材や知的財産など「見えざる資産」が企業価値の源泉となりつつあります。

(3)戦略的視点

DX(デジタルトランスフォーメーション)をはじめ、産業の転換期を迎えている今、未来志向のイノベーションの創出が必要となっています。それを担う人々が生き生きと働ける環境を整え、その能力を最大限に活かすことが企業の発展につながると考えられています。

(4)世代価値観の視点

「Z世代(1990年後半から2000年代に生まれた人)」「アルファ世代(2010年以降に生まれた人)」は社会課題に対する意識が高い世代。この世代の社会的・倫理的な価値観をいかに企業経営に織り込む必要性が高まっています。

このように企業における人的資本の重要性が高まる中、人的資本を適切にマネジメントして、企業の中長期的な価値向上につなげていく「人的資本経営」が求められています。

人的資本経営に取り組まなければ、投資家も働く人も離れていく


人的資本を軽視して取り組まずにいると、大きく2つの弊害が生じるでしょう。

●株主・投資家が離れていく
●従業員が離れていく。あるいは仕事に意欲を持てなくなる

まず「株主・投資家離れ」が起きる可能性があります。

昨今、株主や投資家は人的資本に関する情報に非常に注目しています。人的資本の課題に取り組まない企業は、投資先として選ばれなくなる方向へ進んでいます。

人的資本経営とは、「人を大切にする経営」とも言い換えられます。日本の経営者からは「人を大切にしている」という声もよく聞かれますが、本当にそうでしょうか?日本の人的資本の現状に目を向けてみましょう。
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寄稿=津田 郁(リクルート)

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