ビタミンAは、子どもの成長や発育、視覚機能の発達、免疫形成、傷の治癒に欠かせない重要な栄養素だ。ビタミンA欠乏に関連する健康上の問題から子どもを守るには、このビタミンを補充することが有効と考えられている。
インド医学研究評議会(ICMR)の地域医療研究センターに所属するカウストゥブ・ボラ(Kaustubh Bora)博士は今回の研究で、同国の子どもの健康状態には、州によってはっきりとした格差があり、これが地域ごとのビタミンA補充の普及率と関連していることを明らかにした。
言うまでもなく、バランスの取れた健康的な食事を与えれば、幼い子どもに必要量のビタミンAを摂取させることができる。だが、インドの一部の州では、栄養失調や貧困が、他の地域と比べて顕著に見受けられる。
世界保健機関(WHO)は、ビタミンA欠乏症が公衆衛生上の問題となっている地域に住む5歳未満の子どもには、定期的に高用量のビタミンAサプリメントを投与すべきだと勧告している。
インド政府は2006年から、5歳未満の子どもに、生後9カ月から高用量のビタミンA投与を定期的に行うことを推奨する政策を実施している。
この政策が、子どものビタミン補充の取り組みにどれだけ有効かを評価するために、ボラ博士は、インド全土の29州と、7つの連邦直轄領(数は調査当時)にある640の県から収集したデータを分析した。
データは、2015年と2016年に実施された第4回国家家族保健調査(NFHS-4)と、包括的国民栄養調査(CNNS)で得られたものを使用している。分析対象となったのは、女性69万9686人、男性11万2122人、60万1509世帯分のデータだ。
ボラ博士は、調査担当者に対して母親たちが提供した情報に基づいて分析を行った。その結果、対象となるべき子どものうち5人に2人が、ビタミンAの補充を受けていないことが判明した。
つまり、生後9~59カ月(約5歳)の子どものうち、ビタミンAの補充を受けた割合は60%にとどまるという。補充を受けた子どもの割合が80%を超えたのは、ゴア州とシッキム州のわずか2州だった。一方、最も割合が低かったのは、ナガ族が多数を占める北東部のナガランド州で、29.5%だった。
南アジアの他の国々では、インドと比較すると、ビタミンAを補充されている子どもの割合ははるかに高い。パキスタンやアフガニスタンでは96%に達しているほか、ネパールでも、5歳未満の子どもの約85%がビタミンA補充を受けている。
ボラ博士は論文にこう記している。「ビタミンA投与政策(一律にビタミンA補充を定期実施することを推奨する政策)は、公衆衛生の見地から重要な栄養学的介入とみなされている一方で、時代遅れとなっているとしてその有用性を疑問視し、より個々の事情に即した、持続可能な選択肢を求める声も高まっている」
ボラ博士は、こう指摘している。「分析対象となった国々では、最近でも、ビタミンA補充の実施率が、小児期の失明などのビタミンA欠乏に関連する健康問題の発生率に影響を与えていることが判明した」
「ただし、(インドをはじめとする国々では、)高用量のビタミンA補充を一律に定期実施する政策は、時代遅れになっているという懸念がある。今後もこの方法を継続することにより、子どもたちがビタミンA過剰症を発症するリスクにさらされるおそれもある」