エネルギー危機で「原発復興」を画策する米国と日本の動き

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米連邦議会上院は8月7日、過去最大規模の気候変動対策を盛り込んだ「インフレ抑制法案(Inflation Reduction Act)」を可決した。今後10年間で再生可能エネルギーの推進などを名目に4330億ドルの財政支出を盛り込むこの法案で、原子力発電所の収益が改善される可能性がある。

米国議会予算局によると、インフレ抑制法案には、既存の原子力発電所に今後10年間で推定300億ドル(約4兆円)を補助する税額控除が含まれている。民主党は、二酸化炭素を排出しない原子力発電を後押しし、米国が化石燃料への依存を減らすことを期待しいている。

原子力産業はこの後押しを必要としている。高い建設費と新規の建設計画の遅延に直面する米国の原子力業界は、1996年から2016年の間にわずか1基の新たなプラントを稼働させただけだった。その結果、原子力発電所の年間総発電量は停滞している。

調査会社ロディウム・グループの分析によると、今回の法案が成立すれば、2030年までに米国の温室効果ガスの排出量が、2005年比で推定40%削減されることになるという。

この法案は、7日に上院を51対50で通過したが、下院を通過した後にバイデン大統領によって署名される見通しだ。米国エネルギー情報局によると、2021年に米国の電力に原子力発電が占めた割合は20%だった。

日本も4基の原発を再稼働へ


原油価格の高騰と気候変動の悪化によって、原子力発電から撤退していた国々も再考を迫られている。日本は冬までに4基の原発の再稼働を目指しており、韓国は2基の建設を再開する。当初は脱原発を計画していたドイツも、3基の運転の延長を検討している。カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事ですら、州の電力の9%を供給している州内最後の原子力発電所を閉鎖するという公約を撤回しつつあると、AP通信は8日に報じた。

この法案が、低迷する米国の原子力産業を活性化させるのに十分かどうかはまだ不明で、コストと安全性への懸念も、克服すべき大きなハードルとして残っている。MITの研究によると、「原発の建設管理手法の度重なる失敗」により、米国と欧州のプロジェクトは予算超過に陥り、2011年の日本の福島原子力発電所のような大事故が再び起こるかもしれないという不安が、プロジェクトの進展をより困難なものにしている。

しかし、原子力業界は楽観的見方を崩していない。原子力エネルギー研究所のマリア・コースニック会長は声明で、この法案が「経済的なハードルに対処し、原子力発電所に投資する自信を与える」と述べている。

編集=上田裕資

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