今回、シリコンバレーの暗号資産業界に身を置く筆者は、日本で暗号資産業界をリードするSBI VCトレード常務取締役近藤智彦氏と、日米の業界動向や未来について語り合った。2回にまたがる対談の前編では、クリプト・ウィンターを迎えた日米の現在、暗号資産業界の未来に大きく影響する法規制についてのディスカッションをお届けしたい。
吉川絵美(以下、吉川):2020年半ばから21年後半の暗号資産市場の活況はいくつかの要因によって支えられていました。まず18年〜20年にかけての下落相場、いわゆる“クリプト・ウィンター”の間に、ブロックチェーンのスケーラビリティを高めるための仕組みとして構築されたセカンドレイヤー(L2)、新たなファーストレイヤー(L1)、DeFi(分散型金融)のアプリケーションなど、さまざまな技術的なブレイクスルーが生まれました。
またパンデミックによるインフレ懸念によって、インフレ耐性があると想定された暗号資産に資産が逃避。個人投資家だけではなく、機関投資家の暗号資産市場参入が顕著に見られました。それによりデリバティブ、先物ETF、コンプライアンスソリューション、レンディングなど、機関投資家が必要とするさまざまな投資インフラが着実に強化され、それがさらなる機関投資家の呼び込みにつながりました。さらにNFT(非代替性トークン)ブームで、新たな層のWeb3人口が生まれ、リテール市場も活発になりました。
その頃日本での市場の動きはどうでしたか。
近藤智彦(以下、近藤):日本でも20年末から暗号資産市場が盛り上がり、CFD取引(差金決済取引)では21年1月に国内の売買高が過去最高となりました。現物取引においても、20年12月から春先にかけて売買高が急伸し、5月に価格が急落した際の月間売買高が過去最高でした。その後11月に再び過去最高値を付けましたが、現在まで下落基調となっており、ビットコインは2万ドル割れまで下落しましたね。
「日本でも、特に今年に入ってからWeb3への関心が高まり、新たなビジネスを模索する動きが出始めている」(近藤智彦氏)
吉川:22年に入って、金利上昇と景気後退などのマクロ的動きに相まって暗号資産市場も暴落し、新たな“クリプト・ウィンター”に突入しました。これまでクリプトやWeb3と謳えば簡単に資金がついてしまう風潮にありましたが、今後1〜2年で自然淘汰が起こるでしょうね。
一方で、Web3に対する関心は減退するどころか、引き続き拡大していると感じています。シリコンバレーでもWeb2からWeb3に優秀な人材が移動しています。またここ1年で、著名な米ベンチャーキャピタル(VC)であるアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)をはじめ、VCが大量にWeb3ファンドの資金調達をしていることからも、引き続き優良なプロジェクトには資金が集まり、これがさらなるイノベーションのトリガーとなり、次の「クリプト・サマー」の基盤になっていくだろうと考えています。
近藤:日本でも、特に今年に入ってからWeb3への関心が高まり、新たなビジネスを模索する動きが出始めていると感じています。我々の界隈においては「NFT」や「メタバース」などの単語を聞かない日はないくらいになってきましたね。一方で、暗号資産取扱サービスに関しては、当初はスタートアップ系の企業が多かったものの、規制の強化やマーケットの急激な変化もあり、ここ数年で大手金融機関の色が強くなってきています。