また、劇中に登場するカクテルはすべてオリジナルのものが用意されていて、「ニューヨークサワー」をはじめ、物語を象徴するようなネーミングがされている。3人のかつての恋人に会いに出かけた後で、パタヤのホテルのバーでボスがウードにつくるカクテルには、それぞれ「アリス・ダンス」「ヌーナーの涙」「雨上がりの虹(ルン)」という女性たちの名前がつけられている。
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さらにカクテルで言えば、若き日のボスが運命の女性プリム(ヴィオーレット・ウォーティア)と初めて出会うシーンが素晴らしい。バーテンダーであるプリムは、未成年であったボスにIDの提示を求める。生年の箇所を指で隠して見せるボスだが、それを見たプリムはその日が彼の誕生日であることを知る。ライターの火を蝋燭がわりにしてプリムがバースデイを祝うシーンは、かなり心に残る場面だ。
8月5日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、渋谷シネクイントほか全国順次ロードショー (C)2021 Jet Tone Contents Inc.All Rights Reserved.
ちなみに原題である「One for the Road」というのは、酒を飲んでいるときに使う言葉で「帰りがけの1杯」とか「最後の1杯」といういう意味がある。脚本の執筆作業の場所としてバーを愛用し、経営までしているというプーンピリヤ監督にとって、この「プアン/友だちと呼ばせて」という作品は、自らのこだわりを随所に散りばめた作品でもあるのだ。
中盤での物語の転換はもちろん圧巻だが、カセットテープやカクテル、タイの風景やレトロな車など、監督自身が自分の人生のなかでこだわってきたディテールも、この「プアン/友だちと呼ばせて」という作品には投入されていて、大きな魅力となっている。
ウォン・カーウァイ監督がバズ・プーンピリヤ監督にアドバイスした「自分自身を投影したものにしたほうがいい」という言葉が、そこには息づいているようにも思える。