世界的巨匠が見初めたアジアの才能が手がけた タイ映画「プアン/友だちと呼ばせて」


1年後、行き詰まっているとカーウァイ監督に「このストーリーは捨てよう。君に思い入れがないから。もっと自分自身を投影したものにしたほうがいい」と言われる。あっさりと自らが提示したアイデアを引っ込めたのだ。このあたり、プーンピリヤ監督を対等の映画人として認めるカーウァイ監督の度量の広さがうかがえる。

プーンピリヤ監督はこの言葉に意を強くし、自らの趣向や体験なども取り入れながら、余命宣告を受けた人物がかつて愛した女性たちに最後の別れを告げにいくという物語をつくりあげる。

そしてカーウァイ監督からは再び、「行動をともにするもう1人の人物を登場させては」というアドバイスを受ける。結果的に、この設定が「プアン/友だちと呼ばせて」という作品を、さらに味わい深いストーリーにしている。


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タイを縦断するロードムービーと思いきや?


白血病で余命宣告を受けたウード(アイス・ナッタラット)は、タイのバンコクからニューヨークでバーを経営するボス(トー・タナポップ)に電話をかける。「死ぬ前に自分の頼みを聞いてくれ」という内容だった。

ウードとボスは数年前までニューヨークで一緒に暮らし、2人でバーを開こうと約束した間柄だった。しかし突然ウードがバンコクに帰国してしまい、以来、連絡も取り合っていなかった。

昔の親友からの久しぶりの連絡に、取るものもとりあえずバンコクに駆けつけたボス。ウードが彼に頼んだのは、かつて自分が愛した女性に渡したいものがあるので、父親の形見の古いBMWを運転して連れて行ってくれ、という願いだった。


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こうして2人はタイの国内を縦断する旅へと出かける。向かったのはバンコクから北へ260キロ離れたコラートという街で、そこに住むアリス(プローイ・ホーアン)を訪ねた。かつてニューヨークでダンサーをめざしていたアリスはウードと愛を育んでいたが、突然2人でタイへと帰国してしまったのだ。ウードはボスとの「バーを開く」という約束を反故にして。

タイへ帰国後、ウードとは別れ、いまはダンススクールを経営しているアリスだったが、かつての気まずい思いもあり、なかなか会おうとはしない。ボスの説得により、ようやく顔を合わせたウードとアリスだったが、ひさしぶりに手を取りダンスを踊ったことで和やかな表情が戻る。ウードは用意してきたものをアリスに手渡すのだった。
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文=稲垣伸寿

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