トラック用エンジンの市場をめぐる戦いは「環境保護」がカギとなり、カミンズはエコなスタートアップとの戦いを余儀なくされているからだ。同社のトーマス・ラインバーガーCEO(59・写真)は「受けて立つ」と自信を隠そうとしない。そして、「テスラだけで経済を回すことはできない」とさえ言う。
「テスラのターゲットは富裕層ですから」
カミンズが成功してきたのは、ディーゼル・エンジンに対して厳しくなる一方の環境規制に対応してきたからに他ならない。バッテリーや水素エンジンのトラックが全面的にディーゼルに取って代わる日が来ても、カミンズは対応できるというのだ。
カミンズの創業者クレッシー・カミンズ(右)は、自社エンジンを搭載したクルマでカーレースの「インディ500」などに参戦。経営でも攻めの姿勢を貫いた。
ラインバーガーが、徐々に進む変化に対応できるようカミンズの基盤を構築し始めたのは6年前のことだ。以来、バッテリーや水素燃料電池を扱う企業を買収し、次世代パワートレイン(動力源)に特化した部門も新設。彼はこうした取り組みと、同社の世界規模の顧客基盤をもってすれば、2020年代以降も、エコなトラックやバス、ボート、電車、採掘機器、発電機の市場を牽引していけるとみている。
「業界が一つのテクノロジーに落ち着くと、そこからはひたすら規模とコストの戦いになります」
1970年の米大気汚染防止法はディーゼル・メーカーに対し汚染物質の少ない製品の開発を義務付けたが、最終的にはそれがカミンズの成功を導いた。短期間でよりクリーンなエンジンを市場に出すことができたからだ。二酸化炭素をやり玉に上げている今回も同じ展開になる、というのがラインバーガーの読みだ。彼は、「脱炭素化は、カミンズにとって成長のチャンスになるはず」と話す。
「技術革新こそ我々が標榜するところです。そうすれば、ごく安価な商品を100万台売りさばくような競争にしのぎを削る必要はありません」
Cummins カミンズ◎1919年創業、米インディアナ州コロンバスに本社を置くエンジンメーカー。CEOはトーマス・ラインバーガー。バスや電車、データ・センターのマイニング機器に至るまで、多種多様な機械の動力源として年間100万台以上のエンジンを出荷。地域との共生を謳っており、地元コミュニティにも熱心に協力している。