ー「残念なことに、私たちは喜びを先送りしすぎている」と書いていますね。
パーキンス:私にも苦い思い出がある。娘たちと子ども向けの映画を楽しめる年数が限られていることを忘れ、その時期を最適化し損ねた。
なぜ多くの人が喜びを先送りするのか。たぶん、不安と習慣のなせる業だろう。自らの「保険外交員」となり、万一に備え、倹約しすぎてしまう。
そして、最大の問題が習慣だ。会社と家の往復で、人生の目標を忘れてしまう。ネズミがチーズをもらえなくなってもホイールで走り続けるのと同じだ。しかし、人生の目的は、お金をためて喜びを先送りすることではない。人生を楽しむことだ。
ー若いころから、「いましかできない経験にお金を使う」ことを人生の指針・原則としてきたのはなぜですか。
パーキンス:祖母や父が、私と同じ経験をすることができないのを見て、経験をするには最適な時期があると気づいたのがきっかけだ。
そして、やりたいことの優先順位を考え始めた。チーズを食べることなくホイールで走り続けるネズミやハムスターにはなりたくなかった。
「記憶の配当」という喜び
ー経験の価値を大いに信じている」と書いていますね。
パーキンス:自分の経験を人に話したり、経験を振り返ったりすることが、新たな喜びや価値を生む。経験自体も楽しいが、それを懐かしく思い出すことで、喜びが生まれる。「記憶の配当」だ。
また、人に経験を話すことで笑いが生まれ、友情も築ける。それが副次的な経験を生み、またそれを人に話す。
経験と「記憶の配当」が融合することで、人生が「雪だるま式」に豊かになる。経験と、経験の思い出を積み上げていくことが、「人生で最も大切な仕事」だ。
ー「経験のポイント化」とは?
パーキンス:経験から得た喜びや充足感を数値で示すことだ。その経験を共有したり、「記憶の配当」によって経験を思い出したりすることで得られる喜びも、ポイントとして積み上げる。
人々がよりよい決定を行えるよう、幸せを数量化する方法を示したかった。
ーいま、自分の人生を振り返って、どう感じますか。
パーキンス:人生にも重要業績評価指標(KPI)のような基準を設け、経験や行動を考えてきたことは、自分が望む人生を生きるうえでプラスになった。
いましかできない経験にお金を使うようにしてきたことで、人生が豊かになった。精いっぱい生きているから、死が怖くない。充実した人生を送っていない人は死を恐れる。いつも欠乏感にさいなまれているからだ。私は明日死ぬことになっても、何かをやり残したなどとは思わない。素晴らしい人生だった、と思う。
富の最大化を目指していたら、不安な毎日を過ごしていたはずだ。充足感がないからだ。「経験の合計」は自らの選択の合計だ。それが喜びをもたらす。
Photo Courtesy of William O. Perkins III
ビル・パーキンス◎コンサルティング・サービス企業BrisaMaXホールディングスCEO。ベンチャー・キャピタル、ヘッジファンドマネジャーとして大成功を収める。その後、映画業界に進出し、監督・俳優として映画製作も行う。ポーカーの名手としても有名。