子どもが生まれると、「世界中の子どもを笑顔にしたい」と考えるようになった。そこで、25歳のときに非営利団体を立ち上げ、学校づくり、森づくり、被災地の復興支援など、世界中の子どもたちを笑顔にするための活動を開始した。
最初は、活動を通して世の中の幸福に貢献できるイメージを持っていた。そして、自らの活動によって、困っている人々を助け、彼らの喜ぶ顔を見ると、自分自身も心の底から幸福を実感した。しかし、持ち出しや寄付、助成金で成り立つ団体運営を知り、世界平和や他者の幸福を掲げながらも、お金の問題がたえないことに葛藤した。
そこで、「お金だけを求めても、社会貢献だけを求めても、どちらも永続的ではないと気づいた」という。
同時期、ダボス会議を主催する世界経済フォーラムや、稲盛和夫氏が主催する経営者の勉強会「盛和塾」と縁があり、様々な国際会議や経営者の会合に参加する機会を得た。そこでの出会いや経験にインスピレーションを得て、永続的発展を追求する経営者になりたいと考えるようになった。
ティピカはオランダで創業、今も同地を本拠地としている
「若い頃は、『幸福=自己実現』だと思っていたんです。ですが、NPOでの経験から、自己実現を果たすことが幸福なのではなく、『本当の幸福は自分一人では成し得ない』と確信しました。目の前で誰かが苦しんでいる姿を見て、幸福を感じられる人間はほとんどいないはずです。自分だけではなく、周りの人も幸せであることが、本当の幸福につながるはずなんです。
また、『経済行為=お金を増やすこと』と考えていたのですが、ある時それが誤解だと気づきました。盛和塾での学びで、東洋における経済の本質が『経世済民(世の中を治めることで人々を苦しみから救うこと)』だと知りました。世の中を平和にし、苦しんでいる人を助けることが経済行為なのです。
そうして、人類の幸福追求と経済の永続的発展は本来別々にあるものではなく、一貫していて、そこに矛盾や葛藤などはないものだと考えるようになりました。むしろ、永続的発展こそが自然な経営だと確信しました」
そのビジネスモデルを構築できていないのは、経営者として自らの発想が乏しいからではないか。そう自問しながら、「成長すればするほど、関わる全ての人々が幸せになる経営を実践しよう」と決意した。
そのテーマとしてコーヒーを選んだ理由を、後藤氏は次のように語る。
「コーヒーは人々の生活に彩りを添える素晴らしい嗜好品です。しかし、私たちがおいしいコーヒーを楽しむ背景には、生産者たちが苦しむ負の構図がありました。生まれた国や環境によっては、どんなに頑張っても報われず、貧困に苦しんでいる人もいます。その事実から目を背けるのではなく、努力が価値になり報われる世界に変えたいのです」