リチャード・フロリダは、2002年 の『The Rise of the Creative Class』(邦題:『クリエイティブ資本論─新たな経済階級の台頭』)で、時代に先駆けて新しい職業区分「クリエイティブ・クラス」(科学者、技術者、芸術家、デザイナーなどの“スーパー・クリエイティブ・コア”と、金融、法律、医療、企業経営などの“クリエイティブ・プロフェッショナル”)を取り出して見せ、各界で大きな話題と議論を呼び、ハーバードビジネスレビュー誌の「Breakthrough Idea Award」も受賞した。
また、2012年には改訂版『The Rise of the Creative Class, Revisited』(邦題:『新クリエイティブ資本論─才能が経済と都市の主役となる』)で、深刻化する格差問題の批判に応えて、クリエイティブ経済への労働者クラスとサービスクラスの統合のため、ニューディール時代以来の新たな社会契約として、6項目からなる大胆な制度改革と公共投資を提案した。
新しいテクノロジーの実装速度が増し、無形資産経済へのシフトが言われる中、その担い手であるクリエイティブ・クラスは、何を求め、どこに向かっているのだろうか。
80年代日本から得た「気づき」
「『The Rise of the Creative Class』(2002年)のアイデアは、1980年代に、日本で豊田市郊外の工場を訪れて以来ずっと頭に残っていたものが『気づき』となって生まれたものなんだ」。インタビューの冒頭で、フロリダはこう教えてくれた。
当時「現代資本主義の進化」を研究していたフロリダは、オハイオ・ステート大学で同僚であり、日本に造詣が深く、妻が日本人でもあったマーティン・ケニー(現在はカリフォルニア大学デイビス校に在籍)と、当時2つの最先端の資本主義モデル、シリコンバレーの革新的イノベーションと日本の現場主導型生産システムに注目し、2冊の本を書いた。
「豊田市の郊外のメーカーの研究所で、生産マネジャーに『さまざまな異なるプロセスをどうやってまとめているのか』と聞くと『ノーノー。研究所じゃなくて、工場でやってるんです。工場が研究所なんです。どこの部署でも社員の考える力(Brain Power)を生かしているんです』との答えが返ってきた。
そのときはまだよくわかっていなかったけど、日本型資本主義モデルの本質は、労働者を道具としか見ない米国のテイラーやフォードと違って、工場労働者の知的能力や精神的労働を基盤としたものなんだ、と後になって気づいたんだ」