ハーバード大学では英文学専攻、のちに統計学に変更し、金融や企業マーケティングのインターンを経験。卒業後はキャピタル・ワンやショッピングアプリのスタートアップを経て、アンドリーセン・ホロウィッツに移る。2016年、26歳の時のことだ。
「投資家として、マーケットプレイスのさまざまな仕組みを見ていくうちに、たくさんのソーシャルネットワークや新しいコンテンツの創作プラットフォームの可能性に引かれ、クリエイター・エコノミーのスタートアップに投資するようになっていました」
実は、小さいころからアーティストになりたかった。しかし、クリエイティブな分野に入る人やアーティストになる人の多くは、上流階級や上中流階級の出身。彼女のように、経済的に安定していない家庭環境では、アートの勉強は奨励されなかったし、美術学校に通って画家やアーティストになるという道は選べなかった。
クリエイターも似たことが言える。多くのクリエイターはまず無料のコンテンツをつくり、オーディエンスを獲得する。その数年後に収益化できれば御の字だ。大半の富を握るのはわずかなトップクリエイターだけ。ほかに収入源や財政基盤がなければ生活は困難だ。しかし、デジタルツールと新しいビジネスモデルの出現がこの狭き門を大きく変えようとしている。
彼女のもうひとつの有名なブログポスト『100人の真のファン』を読むと、その世界観がより具体的に伝わってくる。これまでのように、数万人にフォローされるインフルエンサーを目指さなくても、100人のコアなファンがいればクリエイターとして生計が立てられるというのだ。
2008年に米WIRED誌の創刊編集長、ケビン・ケリーは「1000人の真のファン」というエッセーで、有名セレブを目指さなくとも、年間100ドルを使う「真のファン」のベースが1000人できれば、年間で総額10万ドル(日本円で約1350万円)の収入が得られると論じた。
リー・ジンはさらに、100ドルではなく、1000ドルをクリエイターに支払う「真のファン」が100人いればいいと説く。支払う金額に合わせて、それぞれのニーズにあったコンテンツを届けることで、ニッチな分野でより収益化がしやすくなるからだ。
このような収益化には、消費者とクリエイターを直接むすぶ購読やチップなど支払いツールや、コンテンツの所有権が証明できるNFTといったWeb3のテクノロジーの登場が必要だった。クリエイターがコンテンツの所有権を保持しながら、観客から直接金銭を授受できる新しいプラットフォームがクリエイター・エコノミーの舞台だ。