アートがあり、アーティストがいる街は、人に何をもたらすのか?

深井厚志(左)と杉山 央(右)


──アーティストの藤元明さんによる企画「ソノ アイダ」は、現在新有楽町ビルの一角を使ってガラス張りの公開アーティストスタジオとし、創作の過程を見たり、交流ができる試みとして実施されています。反響はいかがですか。



深井:アーティストの生態系は、展示場ではなくスタジオや制作場にあるんですよね。そのスタジオが街にあることで、キュレーターやコレクター、アーティスト仲間など、今まで有楽町に来なかった人たちがやって来る。手放しでも自動的に街に多様性を生み出す装置になっています。

ただ、ビジネス街のど真ん中に突然アーティストのスタジオができたわけですから、そこにビジネスパーソンがふらりと入って行くのはやはりハードルが高く、その交わりを生むにはまた仕掛けが必要です。また、すぐに何か変化や結果はでないかもしれません。ですが、「街でスタジオを目にしていたビジネスパーソンに3年後や5年後に、影響がないわけがない」と私は信じています。

杉山:とても共感します。「なぜアート作品を見るのですか?」とよく聞かれますが、僕は、「他人の考えを理解しようと思う行為」だと思っています。正解はないかもしれないけれど、作家がどういう思いでこの作品を作ったかを読み取ることで、いろいろな人の考え方を理解し、世の中の見方を広げることができる。

オフィス街にスタジオがあり、たとえ入るのが難しくても、遠くからでもその息吹は感じることはできるはず。わざわざ出かける美術館も素敵なのですが、日常空間でアーティストと関われて、様々な人の考え方に触れられる場所を作ることは非常に重要な気がします。

深井:最近、芸術文化に限らない広い意味での“カルチャー”について考えています。日本は特に、ファッション、アート、建築など細分化されている状況が顕著なので、それを打破したい。全く違う世界が自然に入り込んでくるような世界観をつくる、あるいは、異なる世界に積極的に向き合う、歓迎する態度=カルチャーを作っていかなければならないと思っています。

学生時代はイギリスの片田舎に住んでいたのですが、美術学部の友人が小さな個展をやると、街の人たちが自然に見に来るんですよね。そして「どうしてこれを作ったの?」「普段何してるの?」とコミュニケーションをとる。アートに特別に関心があるわけではない人々でも、自分と違う領域、ジャンルに対して感覚が開かれていて、学び合おうとする風土がある。

この先、そういう価値観や姿勢が求められていく。そして、その姿勢自体はアートに習うことができるのではないかと。アーティストと話していると、必ず学びがあるんですよね。それは彼ら一人一人が、独自の視点と飽くなき好奇心・探求心で何らかのテーマや技法に特化していてるから。アーティストと向き合うところから、今日的な人のあり様を更新できる気さえしています。
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文=堤美佳子 ポートレート=小田駿一 編集=鈴木奈央

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