アートがあり、アーティストがいる街は、人に何をもたらすのか?

深井厚志(左)と杉山 央(右)


──杉山さんは、まだ計画の影も形もないときから、teamLab Borderlessを手掛けられ、「自分にとって人生を捧げた挑戦だった」とおっしゃっていましたね。

杉山:やらなかったら絶対後悔すると思ったんです。変な話、僕にとってメリットはゼロですよ(笑)。むしろ、失敗したらどうなるかわからなくて、会社員としてはリスクしかなかない。でも、どうしてもやりたかったんです。


東京・お台場の森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス

学生時代に街を使ったアート活動をしていた頃に抱いていた夢が叶うと思ったんです。街を管理運営している立場にいるからこそ、自分がアーティストの理想を実現させるサポートをしたい、そう考えました。

街を持っている側は、比較的チャレンジしやすい環境にあります。例えば、六本木ヒルズの森美術館を別の事業者が単体で成り立たせようとすると難しいけれど、森ビルとしては、高層階に美術館があることで街全体の価値が上がるというシナジーがあります。

それに、不動産事業は差別化をしていかないといけない時代。大家とテナントという関係だけだと、どこの街も一緒になってしまうという限界があります。だからこそ、リスクを取れる大家が自分たちで床を使って、差別化できるコンテンツを生み出さないといけない。

森ビルは、アークヒルズにサントリーホールを作り、六本木ヒルズに森美術館を作ったように、必ず街の中に文化を入れています。文化をコンテンツといってしまうのは少し乱暴ですが、個性を出すための装置として、コンテンツビジネスを自らやる。最近は他のデベロッパーさんも同じだと思いますが、それが選ばれる街になるための戦略だと思います。

──深井さんが三菱地所の仕事で取り組まれている有楽町の街づくりについてはいかがですか?

深井:三菱地所はブランドが確立されている大手町、丸の内に対して、有楽町の再開発にあたっては、「もっと新しいことが起きるような街にしたい」という考えのもと、 “個”にフォーカスされています。

2019年より「街の輝きは人がつくる」をコンセプトに多彩な人材の交流や協業を促し、未分化な人やアイディア、モノ、コトを見出だし育んでいこう(=cultivate)というプロジェクト「Micro STARs Dev.(マイクロスターズディベロップメント)」が始まりました。エスタブリッシュされたビッグスターでなく、小さなスターがたくさんいる街。そこで「アートと相性がいいのではないか」ということで、私も参画することになりました。

この計画では、アートをコンテンツというより、個性や多様性を担保する装置、ひとつのDNAのような感覚で街に入れていきたいという考えですね。

アートと言うと、「カラフルで、抽象的なもの」のように一定のイメージが連想されるかもしれませんが、アートは元来多様なものですし、それを生み出すアーティストそのものが多様性の宝庫。彼らの生き方や考え方、価値観、視点を街に染み渡らせていくことで、多様なものを受け入れやすい街、参入しやすい街になっていく、そんな考えだと私は理解しています。

ですから、再開発によって“いかにもアートな街”になるかといえばそうではなく、ギャラリーや美術館もある街ではありますが、有楽町に関しては文化施設があることもプライオリティは高くないです。

それよりも最近は「アートでなく、アーティストがいる街」をスローガンにしており、こういう動きこそ、大きな社会経済におけるアートのあり方や価値の変容の現れだと思っています。つまり、モノとしてのアートではなく、もっと本質的なところに世の中が気づき始めているように感じます。
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文=堤美佳子 ポートレート=小田駿一 編集=鈴木奈央

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