アートがあり、アーティストがいる街は、人に何をもたらすのか?

深井厚志(左)と杉山 央(右)


──杉山さんは、都市×アート×テクノロジーをテーマに、新しいビジネス開拓を続けられています。

杉山:近年、“選ばれる街”の基準が変化してきています。少し前の時代は、駅からの距離や建物のグレードなどのスペックが重視されていたのが、今は、「そこにどんな出会いがあるか」「どういう人が集まっているか」「どんなことが生まれるチャンスがあるか」というのが街の価値になっていています。

それを積極的に生み出す施策として、働く・住むだけではない“楽しさ”がある街、複合用途を入れる街づくりをするというのが、最近の大きな流れとなっています。

では、どんな人を集めるか。未来をつくる人のレイヤー構造があるとしたら、5年先をつくるのがスタートアップの人たちで、10年20年先をつくる人たちは大学や企業の研究者たち、さらに先、100年後の未来をつくるのはアーティストや思想家たち。街にはその全てのレイヤーが集まっている方が豊かなコミュニティが生まれると思っています。

近い未来を考えている人はビジネス的な考え方を持っているし、遠くの未来を考えている人はアート的な思考を持っている。そういう時間軸が違う人たちが互いに作用し合うことで、街に実装されるものが生まれる。その多層的な構造をつくるべく、美術館やVCセンター、それを融合するような仕組みのある街づくりをしています。



──杉山さんが現在の活動に至った経緯も教えていただけますか?

杉山:学生時代にアーティスト活動をしていました。作り手として“街”を表現の場にしようとしたとき、すごく苦労したんですよね。クリエイターやアーティストの表現が平面を超えて空間や立体に広がっていくときに、世の中にその受け皿になる場所がないんです。

公共空間さえも表現の場にばれもっと楽しい街になるのでは、と思ったときに、自分が空間を持つ街側になって、クリエイターやアーティストのサポート役になれたらと考えました。

──アート×ビジネスに関して、深井さんは現在どのようなアプローチをしていますか。

深井:抽象的な表現になりますが、「領域を拡大する」「全く異なる領域を掛け合わせる」ことを意識してやっています。

私はコンサルタントでありながら、未だに編集者の肩書きを名乗ることが多いんですが、それは、自分がゼロから何かを作り上げるよりも、才能と才能を結び合わせたり、プラットフォームと人をつなげたり、編集して別の新しい形を導き出していくのが自分の得意な領域だと思っているからです。

今、アート自体の存在意義や立ち位置、性質が変容しようという節目にある気がしています。そのときに、アートの領域だけで閉じるのではなく、ビジネスや地域社会、あるいは科学やエンジニアリングとアートを結びつけていくことを積極的に仕掛けていかなければならない。芽が出るのは5年10年、あるいは30年先かもしれませんが、全て文化芸術の未来への投資だと思って働きかけています。

特に意識しているのはそのための仲間作り。アート業界で“越境”に積極的な人を探して一緒に仕事を仕掛けたり、ビジネス業界に対して、文化芸術の本質を理解してもらえるように丁寧に説明をしたり。今は、存分に種を撒き散らしているというフェーズですね。
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文=堤美佳子 ポートレート=小田駿一 編集=鈴木奈央

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