タキザワ氏の言うとおり、ミズノではチームメンバーの熱意もあったが上司を含めた社内の理解も大きかったと長谷川氏。
「この提案をした時に、当時のものづくり部門の役員が『これは可能性もあるし、ストーリーもあるから、ぜひやってみるべきだ』というようなことを言ってくれて、強烈な後押しをしてくれたんです。それもあって、非常に早く進んだということもありますね」(長谷川氏)
ミズノケーンは3月29日に発売となったが、好評を得ているそうだ。開発メンバーのひとり、中川氏も利用しているが、周囲からの反応は上々だと言う。
「コンセプトを議論している段階で、白杖もかっこ良かったり、可愛かったり、おしゃれなものがあったらいいよねという話があったんです。ですからこの白杖を持って、まだ利用していない視覚に障がいのある知人に会うと『持たせて』とか『触らせて』とか『欲しい』などと言われます。
ただ、利用している人からは、せっかくミズノケーンを持っているのに晴眼者の人からは話題を振って貰えないのが残念だと言われました(笑)。僕も街中で『お手伝いしましょうか』と言われた時、ミズノケーンについては触れてもらえなかったので見かけたらぜひ声をかけてほしいですね」(中川氏)
一般社団法人PLAYERS理事、視覚障がい者の中川テルヒロ氏
実は「ミズノケーンST」のデザインには中川氏が言ったように、新たなコミュニケーションを生み出すきっかけになってほしいという願いが込められている。
「その靴おしゃれですね、どこのブランドですか?」という会話と同じように「その白杖素敵ですね」と気軽に声をかけられる社会。それこそが真の意味での「ダイバーシティ&インクルージョン」なのではないだろうか。街中でミズノケーンを持っている人を見かけたら、ぜひ声をかけてみてほしい。
多様性のある社会を実現したいというのは、多くの人の願いだ。道のりは長いかもしれないが、それを実現するヒントはタキザワ氏がいった「会社ごと」という言葉にあるのかもしれない。
まずはあらゆることを「他人ごと」ではなく「自分ごと」「会社ごと」として考え、課題を見つけたら自分の得意分野を生かしてそれを解決する方法を考える。何か特別なことをしなくても、世界中の人や企業が、今回のミズノのように自分たちの持っているスキルやノウハウを生かして、一歩前に踏み出せば多様性社会は実現できる。ミズノケーンの誕生はそんな希望を与えてくれるニュースだ。