「ボーンチャイナ」の意味を知ったら、カップを買いたくなる理由

「ノリタケの森」内のカフェでは、ノリタケの食器で食事やコーヒーが楽しめた


クラフトセンターの展示に答えがあった。かつて英国において、中国の磁器を再現しようとしたものの、うまくいかなかったことが起源にある。磁器の透き通るような白さを出すのに不可欠な「カオリン」が入手できなかったからだ。

試行錯誤の末、牛の骨の灰を混ぜることで、美しい白色を表現する技法が編み出された。「ボーン」とは、牛の骨(bone)のことだったのだ。さらに、英語で「china」は、磁器を意味することから、ボーンチャイナとは「牛の骨の灰を使用した磁器」、ということになる(焼き方も比較的低温で焼くなど、通常の磁器とは異なる)。

帰りに寄ったショップで、カップの裏側を見ると、ノリタケのマークとともに英語で「ボーンチャイナ」と書かれていた。それまであまり磁器に興味がなかった筆者だが、ボーンチャイナの意味を知り、欲しくなった。ストーリーは、ブランドの価値を高めてくれる。このことを、身をもって感じる体験であった。

ひょっとしたら、私がボーンチャイナに関心を示した理由として、行きつけの喫茶店からつながったという、もう一つのストーリーが存在したことも、あったかもしれない。単に観光ガイドブックを見て訪れたのとは、感動の度合いが違ったようにも思う。

ブランドのストーリーが、体験者オリジナルのもう一つのストーリーと組み合わさった時にこそ、顧客の購買体験は最高潮に達するのだ。


「ノリタケの森」はノリタケカンパニーリミテド本社に隣接していた

偶然を待つ形にはなるが、この体験の再現性はある。ポイントは口コミである。

ブランドが感動的な体験を提供し続けることで、自然と口コミが増えていく。その口コミを「偶然」耳にした者は、自らの直感を信じて目的地に向かう。「自分で行くことを選択したんだ」という満足感とともに。オリジナルのストーリーが生まれる瞬間である。

ノリタケには、いくつものストーリーがある。終戦まもない1946年。食器の生産を再開するも、技能者の激減などの影響で、品質を保つことができなかった。そこで、「ノリタケブランド」を守るため、やむなく「ローズチャイナ」の商標を使用した。

2年後の1948年、品質の向上を待ってから、ようやく「ノリタケ」の文字を復活させた。ブランドを守ろうとする姿勢が、胸を打つ。このストーリーも、筆者の心に残っている。

その後、名古屋から岐阜に向かった。宿の近くの喫茶店でコーヒーを頼むと、季節の花々が描かれたノリタケのカップ&ソーサーが出てきた。喫茶店を経営する女性にすぐさまこう伝えた「ちょうどノリタケの森に行ってきたところです」。すると女性はこう応じた。「まあ、そうなの。このカップ&ソーサーの図柄はね……」。ノリタケのストーリーはまだ終わっていなかったようだ。

ブランドは、ストーリーテラーたれ。そんなフレーズが頭に浮かんだ一日であった。

文・写真=田中森士

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