大手コンサルティング会社マッキンゼーによれば、中国の債務の対GDP(国内総生産)比率は昨年、282%にまで上昇。一部からは金融・銀行危機の前ぶれではないかという声もあがっている。
しかし、米ワシントンを拠点とするピーターソン国際経済研究所のシニアフェローで中国銀行事情の専門家であるニコラス・R・ラーディー氏によると、事態はそれほど深刻なものではないようだ。
上海の復旦大学で5月25日に開催された「上海フォーラム」で、ラーディー氏は中国の債務水準の高さに関連する10の「緩和要因」を挙げ、現在の傾向が続くならば中国で「銀行・金融危機は起きないだろう」と述べた。
ラーディー氏が挙げた10の緩和要因は以下のとおり。
1.総債務には中国の銀行にある預金が含まれているが、取り付け騒ぎなどの兆候は起きていない。
2.中国の債務の大半は元建てであり、元は他の重債務国に金融危機をもたらした通貨変動の圧力にさらされていない
3.家計の債務は比較的少ない。特に、家計の不動産抵当債務はGDPの約16%、総債務の5.7%に過ぎない
4. 企業の負債資本比率は過去20年間にわたり下落している
5.中国経済の3分の2を占める民間企業の負債比率は低下している
6.中国の債務の最大の増加は地方の政府関連組織に関わるものであり、当局がすでに対策を進めている
7.中国企業の利益率は約5.9%と依然としておおむね良好で、過去10年間の水準に引けを取らない
8.中国の銀行の預貸率(預金残高に対する貸出金残高の比率)は金融危機を経験した国に比べて低い
9.与信の伸びは、数年前の急騰の後、今年の第1四半期はマイナス18%となった。当局の金融政策引き締めにより、過剰な貸出の抑制に成功していることを示している
10.政府は既に安全性の高い貸出しの仕組みを銀行の公式ルートに組み込むことに成功しており、それらは従来のグレーなマーケットでの取引よりもよく統制されている
中国が貸出をより制御されたルートに移行させ、与信の伸びがピーク時より低下し続ける限り「銀行・金融危機は起こらないだろう」とラーディー氏は語った。