正しい行動を起こした科学雑誌を称賛しよう

Getty Images

前向きな話をしようと思う。科学論文誌が正しく行動したことについて。

これまで何年にも渡り、悪質な科学について書いてきた。特に不満なのは、偽りの科学的結果が、不正なものから単にずさんなものまで、相互査読の科学論文誌に忍び込んでいることだ。その頻度はあまりにも高く、毎年発表される論文の数が増えてからは特に顕著だ。その手の悪質な論文は、詐欺師やいかさま師らによって(ときには専門的な知識がないために理解できない無実の人々によっても)非科学的な主張を「証明」するために利用される。

幸いなことに、多くの論文誌(一般に優れたもの)が、以前よりも高い問題意識を持ち、(ときには)著者の反論を押し切って論文を撤回する行動を起こすようになってきた。

良いニュースに入る前に、最近の記憶で最も悪名高い科学論文を注意喚起のために紹介する。1998年にThe Lancetに掲載されたアンドリュー・ウェイクフィールドの不正な研究は、ワクチンと自閉症に因果関係を見つけたと主張した。The Lancetはその論文を、2002年以降数多くの反証がなされたにも関わらず、2010年まで撤回することはなかった。原著者13人のうち10人は、2004年に自ら「Retraction of an Interpretation(解釈の撤回)」を発表したが、The Lancetは著者全員の合意がない限りできないと撤回を拒否した。当時すでに反ワクチン運動を率い、現在反ワクチン主義者に崇拝されているウェイクフィールドはこれを拒否した。

おそらく問題の論文は、ワクチンで予防可能な疾病による何千人もの死に間接的に寄与した。そして、2002年までにわかったことを踏まえてもなお、The Lancetは発行から12年後まで撤回が遅れたことについて何の弁明もできない。

閑話休題。本日私は、数年間にわたり私が撤回を要求してきた記事に焦点を当てたい。Scientific Reports(Nature Publishing Group発行)が、約9カ月後に実際に撤回した論文だ。

私が非難した論文は、ポイズンオーク(アメリカツタウルシ)の抽出物を痛みの治療に使用できると主張する研究だった。ばかげていると思われるかもしれないが、そのとおりの内容になっている。問題の論文は実に科学っぽく書かれていた。「Ultra-diluted Toxicodendron pubescens attenuates pro-inflammatory cytokines and ROS-mediated neuropathic pain in rats.(超希釈されたToxicodendron pubescensは炎症性サイトカインと活性酸素を介した神経障害性疼痛を軽減する)」というタイトルだ。

「Toxicodendron pubescens」が何かと思った人のためにいうと、ポイズンオークのことだ。これは樹木ではなくオークとも関係なく、ポイズンアイビー(ツタウルシ)の仲間だ。いずれの植物も、触れるとひどいかゆみと痛みをともなう炎症を起こす油分を含んでいる。

どこの世界でポイズンオークが痛みの治療に使えるというのか? もちろん使えない。実はこの論文はホメオパシー治療に関するものだった。ホメオパシーの核をなす教義の1つは「like cures like(似たものは似たものを癒す)」、十分に希釈されていれば、というものだ。このため、ポイズンオーク論文は、ポイズンオークは痛みと痒みを生じさせるので、希釈すれば、痛みと痒みの治療に使うことができるという前提から始まる。
次ページ > ホメオパシーは一連の信仰

翻訳=高橋信夫

ForbesBrandVoice

人気記事