ウォーレン・アイゼンバーグ(Warren Eisenberg)とレオナード・ファインスタイン(Leonard Feinstein)という2人の創業者から始まるBBBYの歴史は、他の企業のサクセスストーリーにも相通ずるものがある。創業者の2人は、ニュージャージー州でBBBYを起業した時点で、どちらも小売業で10年にわたる経験を積んでいた。そして、「品ぞろえが豊富で十分な在庫を持ち、意欲的な価格設定で顧客第一の、家庭用品の大型小売店を作る」というビジョンを共有していた。
2010年に家庭用品産業の業界紙「HFN」に掲載された記事などが、BBBYの成功の理由を分析している。こうした分析によると、同社の成功の鍵は、「ありきたりな家庭用品を、ワクワクする、さらにはロマンさえ感じさせるものにしたこと」だという。「同社は、家庭的な雰囲気と、気の利いたカスタマーサービスを組み合わせたユニークな戦略をアピールし、口コミを広めることに腐心した」
アップルやアマゾン、テスラといった、業界をビジョンでリードしてきた大手企業が、BBBYと同様の運命をたどることは想像しにくい。だが、これらの企業もBBBYと同じような要素を抱えており、今後の行方を注視すべきだろう。
アマゾンは、小売事業のほぼあらゆる側面で深刻な脅威に直面するなかで、事実上、ビジョナリーを失う状況に陥った。創業者のジェフ・ベゾスがCEO退任を発表してから数カ月後に発表された2022年第1四半期決算で、同社は7年ぶりに赤字に転落した。売上高の前年同期比の伸びも、近年では最も低い数字だった。
アップルも、似たような事情の下で同様のジレンマに直面している。創業者でCEOを務めたスティーブ・ジョブズが亡くなったのは11年前のことだが、最高デザイン責任者でビジョナリーのジョニー・アイブは、ジョブズの死後も同社にとどまった。アイブが2019年にアップルを去って以来、アナリストらは、同社が先進性を保ち、新世代の顧客を喜ばせることができているかという点に注視してきた。アップルの株価は現状、ピーク時から10%ほどマイナスになっているだけだが、アナリストは収益予想を下方修正している。
ビジネスとは、他社にはないユニークなスキルや特徴の組み合わせであるべきだと筆者は確信している。これには、データに基づいた判断だけでなく、創造性も含まれる。データと創造性、どちらかが片方に対して優位に立つのではなく、この2つの要素が併存していなければならない。ちょうど、スティーブ・ジョブズやウォーレン・バフェットの頭の中のように。
確かに、こうした人たちの思考回路をまねるのは、不可能とは言わないまでも、かなり難しい。しかし読者のみなさんも、2つのうちどちらかに偏っているという自覚があるなら、もう片方の側に大きな投資を行うべきだ。現時点で、大半の企業の評価は、いまだに片方に大きく偏っている……そして、その片方とはデータではないのだ。