2020年6月に356だった導入施設数は、2021年に973、さらに今年6月には2000カ所を超え、新しい市場をリーディングカンパニーとして開拓し続けている。そんな同社の代表取締役社長、上野公嗣(うえのこうじ)氏に起業家として重要な素養、事業成長の秘訣などについてDIMENSIONビジネスプロデューサーの伊藤紀行が聞いた。(全4話中2話)
第1話:派遣事業で始まったBABYJOBが、日本初「おむつサブスク」を誕生させるまで
ユニ・チャームと二人三脚で立ち上げ
──保育所運営とサブスクリプション事業は全く畑違いに見受けられます。どのように事業を立ち上げていかれたのでしょうか。
初めは全くサブスクを立ち上げる意識なんて無くて、2013年の12月に自社で運営する保育所で試験実施したのがきっかけです。
その園は弊社が運営する数ある保育所の中で唯一の、認可外園と言われる国から補助金を受けない保育所で、提供する付加価値の一つとして「手ぶら登園」を始めたのです。
具体的にはおむつも布団も持ってこなくていいし、服も最初に持って来たものをすべて園で洗濯する。だから「子どもと手をつないで登園してきてください」というサービス。これがすごく保護者から人気があり、感謝もされました。
非常に人気だったので他の認可園でも展開したいと考えたのですが、どうしても認可園は「どんな所得水準の方でも来られる」ことを基本理念としているため、保育料以外の料金をいただくのが難しい。実現方法が見出せないでいました。
転機になったのは前職のユニ・チャームの後輩からの相談でした。
共働き世帯の増加とともに保育園の利用率がどんどん上がっているなかで、ユニ・チャームがこれまでさまざまな調査をしてきた「家庭内」のニーズではなく、「保育所内」の利用実態や展開方法について知りたいという相談でした。
そこで逆に「手ぶら登園」の構想を話しました。もしユニ・チャームに協力いただければ、我々が保護者の決済システムや保育所の在庫管理システムを作り、ユニ・チャームがオムツを最小ロットで園まで届けるという仕組みが作れる。そのやり方であれば保護者の在庫を園が預かっているだけなので、全国の認可園でも追加料金なく展開できる。こうやって「手ぶら登園」の独自のビジネスモデルは生まれました。
──最初は自社で運営する保育所向けのサービスだったのですね。
最初はサブスクという意識もありませんので、年齢、サイズ、1日あたりの利用枚数、登園日数など、かなり複雑な価格表を作ってスタートしました。しかしながら、それでは全く浸透しませんでした。
現場に行って原因を見てみると、価格表が複雑なせいで保育士と保護者のやりとりが非常に煩雑になっていて、「他の子に使ってるんじゃないか」「使いすぎなのでは?」「サイズは小さい方でいい」など、これまでに無かったやり取りまで発生していたのです。これでは保育士の仕事が煩雑になるので、保育士におすすめしてもらえません。
──どのように対応されたのでしょうか?
次は土曜日の登園があるか無いか、というシンプルな価格体系に変更しました。「これならいけるだろう!」と思ったのですが、改善はしたもののやはり「土曜の代わりに平日休んだ」などのやりとりがあって。
そうした紆余曲折を経て、最終的に「単一料金・使い放題」という料金体系になりました。そうしたら自然と「サブスク」と呼ばれ始めたのです。振り返って見ると、顧客である保護者、保育士の課題を現場に行き確かめたこと。特に保育所側から見たときの不合理を解決したことがターニングポイントでした。
「手ぶら登園」と聞くと保護者にとっての利益が前に出がちなプロダクトではありますが、保育士の課題も解決できたことが、2000施設・30000人以上にサービスが広がった大きな要因であったように思います。