忘れてはいけないのは「リスペクト」と「楽しさ」
──アスリートを目指す子どもたちへ、メッセージはありますか。
スポーツの危険と楽しさ、その両面を伝えたいですね。まず危険に関して、ボクシングやラグビーのように“相手の命”がかかったスポーツでは、その競技のルールを守らなければ“暴力”になってしまいます。そのため、紳士的な姿勢や戦う相手へのリスペクト、ルールの遵守を決して忘れてはいけません。
また、スケートボードやスノーボードのようにひとつのミスが“自分の命”に関わるスポーツもあります。私が観てきた中で最も印象に残っているのは、2018年の平昌五輪での平野歩夢選手(スノーボード男子ハーフパイプ)の姿です。
この日、彼の前にプレーした選手のうちの何人かが怪我をして動けなくなりました。会場は嫌な空気になり、私を含めご両親など周囲の人間はとても心配していました。恐怖を覚える選手もいたはずです。
しかしそんな中、平野選手はこちらに澄んだ目を向けてニコッと笑い、「行ってくるよ」とひと言。見事なプレーで銀メダルを獲得しました。
あのときのきれいな目は、今でも脳裏に焼き付いています。競技を終えて戻ってきたとき触れた身体がとても熱かったので、恐怖を超越するほどに集中力を高めていたのだと思います。
そしてもうひとつの「楽しさ」を忘れないでほしいということ。危険もあるけれど、スポーツは本来楽しいものですから、楽しんでプレーしてほしい。少し前までは「勝って流す涙は尊い」という文化がありましたが、昨年の東京オリンピックでは「勝ったときの笑顔はもっと尊い」と教えられました。
ですので次世代アスリートの皆さんには、楽しんでプレーし、良い成績を残して、思いっきり笑っていただきたいですね。