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2015.06.01 12:00

クリストファー・ノーランが語る「金儲けと芸術のバランス」

映画監督クリストファー・ノーラン氏 Photo by Jemal Countess/Getty Images for the 2015 Tribeca Film Festival


世界興行収入49億ドルを稼ぎ出し、批評家もその作品を絶賛する映画監督クリストファー・ノーランは、『バットマン』のような大ヒットシリーズを製作するかと思えば、2000年の『メメント』や2010年の『インセプション』といった斬新な作品の脚本を共同執筆し、アカデミー賞にもノミネートされる稀有な存在だ。

4月20日に行われたトライベッカ映画祭のトークイベントで『フォックスキャッチャー』『マネーボール『カポーティ』のベネット・ミラー監督と1時間にわたり対談したノーランは、商業性と芸術性の両立、制作過程、大手スタジオとの付き合い方について語った。

「実際、オリジナル脚本で映画を撮るのは、難しくなった」
ノーランは、人気コミックや小説のリメイクをシリーズ化して確実な観客動員を狙う、昨今のハリウッドの傾向をほのめかした。
「キャスティングさえよければ商業的に成功する保証なんて、今はないといってもいい」
映画スター目当てにファンが劇場へ押し寄せる時代は、もう終わったのだと彼は指摘する。

メンターと仰ぐ映画監督スティーブン・ソダーバーグに助けられながら、彼が初めてスタジオ製作作品を監督したのは、2002年のワーナー・ブラザーズ配給『インソムニア』だった。スタジオからのプレッシャーを緩和する方法についてノーランは語った。
「予算や経費を心配すると、プレッシャーに押しつぶされる。だから日程も予算もオーバーしないよう、むしろ余裕すらもたせるよう心掛けた。」

時間に正確な彼のやり方を物語る好例で、ノーラン自身、自らの作品の中で特に満足しているのが『ダークナイト・ライジング』冒頭の飛行機のシーンだ。このシーンを撮るために何カ月も下準備をした結果、当初5日間の予定だった撮影は、たったの2日で終了した。

また、ベネットとノーランは、スタジオの担当者が事細かに書いてよこす冗長なスクリプトメモが、如何に監督泣かせかという話題で意気投合した。ソダーバーグ監督は、ノーランにスタジオが握る権力の大きさを理解させ、そんな彼らとのパートナーシップを確立するには、聞きたくない意見や提案にも耳を貸し、相手を気分良くさせることも必要なのだと教えてくれたという。

弟のジョナサンと脚本を共同執筆し、妻エマ・トーマスがプロデューサーを務めるという環境で映画を製作するノーランだが、イエス・マンに取り囲まれて仕事をしてはいけないと語った。
「いい仕事をしたければ、敢えて苦言を呈してくれるような人間とするべきだよ。僕の妻も弟も、歯に衣着せず問題点を指摘してくる」

ノーランは7歳の時にスーパー8で『スター・ウォーズ』から着想を得た映画を撮り始めた。リドリー・スコット監督の『エイリアン』や『ブレードランナー』にもクリエイティブな影響を受け、早くから映画監督を志すようになった。そして、2009年に監督デビュー。フォーブスの「セレブリティ100」にも顔を出し、最近では2013年に推定4000万ドルの所得をあげてランクインした。

数字を見てみると、彼がこれまでに撮った映画は、製作費をはるかに凌ぐ総興行収入をあげている。『ダークナイト』は1億8,500万ドルの予算に対し、興行収入で10億ドル以上を稼ぎ出し、『インセプション』は、1億6,500万ドルの予算で8億2,550万ドルを弾き出しているのだ。

確実に利益を出してきたために芸術性の高い作品とドル箱映画のバランスをとることが出来ていると、ノーランは認めている。

「ほかの監督が苦労しているというスタジオ製作でも、僕たちは限界を押し広げることができる。それも経済的な裏付けがあってこそなんだ」

経済的な成功もさることながら、彼の映画は絶妙なタイミングで上映され、ハリウッドで注目を集めているようだ。ヒット作品のひとつが2014年の『インターステラー』は『ダラス・バイヤーズクラブ』で役者としての頂点を極めたばかりのマシュー・マコノヒーを主役に迎えて大成功を収めた。

「実際、運が良かったんだ」とノーランは言う。

「以前から主役は彼と決めていた。『トゥルー・ディテクティブ』の撮影現場を見に行った時は、テレビドラマをやっているのかと少し心配だったが」

ノーランは、2006年の『プレステージ』で、それまで“ウルバリン”だったヒュー・ジャックマンを起用したことについても触れ、時代の精神を捉える脚本といいキャスト、そして幸運に恵まれて初めて良い作品が生まれる、それが時代の波に乗るということなのだと話した。

ノーランは、コダック社の財政支援を呼びかける映画製作者団体の一人だ。財政支援があれば少なくともあと数年はフィルムが供給されるからだが、テクノロジー嫌いだからフィルムを使っているのではないと、ノーランは強調した。

「そこにあるものの姿を、最も自然な形で映像として伝えてくれるから、フィルムにこだわるんだ」

そして、デジタル合成処理のグリーンバックを使わず、特撮技術のなかでも最先端のフロントプロジェクションで『インターステラ―』を撮影したことを例にあげた。

「フィルムが過去のものになったというのは、短絡的で資金面に偏った見方だ。私がフィルムで映画を撮るのは、それがひとつのイメージを捉えて保存するのに最も適しているからだ。映画を作るなら、フィルムという選択肢を除外するべきではないと思う」

「スタジオという組織や、言いなりになっているプロデューサーに撮影の選択が委ねられる現状から脱するべきだ。その選択を監督たちの手に取り戻したいと思っている」

彼がそう言うと、会場は割れんばかりの拍手に沸いた。ノーランにとって、編集過程はシークレットではない。

「僕はいつも、ものすごいスピードで編集作業をこなす。稲妻をボトルに閉じ込めるようなものさ。そうすればエネルギーが残るだろ」

また、物語のアウトラインを書き出すのではなく、プロットの要点を数式やダイヤグラムで表現することも明かした。

「映画を撮り始めるときは、いつも自分にとって興味深い疑問を自分自身に投げかけるようにしている。作品と作品の間に何らかの関連性があるのかという点では、特にそういうことを意識してはいない。ただ、映画の最後にいくつかの疑問を残しておくことを除いてはね」

聴衆の1人が『インセプション』のラストシーンで何を言いたかったのか、と説明を求めた。会場が大きな笑いに包まれるなか、ノーランはこう応えた。

「その質問に答える気はないね。でなければ映画で答えを出しているよ」

文=ナタリー・ロベーム(Forbes)/ 翻訳編集=遠藤京子

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