新刊書は年約7万冊、1日約200冊
出版不況が謳われる中、新刊点数は年々減少傾向にはある。総務省統計局のデータによれば、令和2年の書籍新刊点数は令和元年の7万1903点から大幅に減少した。
だが、それでも「1年に6万8608冊」という圧倒的な数。依然として1日あたり平均200冊近くの書籍が生まれている計算だ。「今日の新刊」「昨日の新刊」の棚は、産声をあげたばかりのそれらの本たちに、短い期間とはいえ強烈なスポットが当たる特別な場所といえる。
紀伊國屋書店新宿本店の吉野裕司氏に以下、本コーナー設置について聞いてみた。
──「今日・昨日」の新刊コーナー設置のきっかけは?
まず、リニューアルに合わせてオリジナルな場所を創りたい、という想いがありました。ネットでたいていのものが購入できる時代にわざわざご来店いただく動機、そこに結び付くような仕掛けがほしかったのです。
直接のきっかけは、内装デザイナーから「柱を巻くような什器に、縦ではなく横に本を積み上げていくのはどうか」という提案があったこと。デザインを見てパッと浮かんだのが「日々の新刊を1列ずつ並べていったら面白いのでは」でした。
実は、「できるだけ多くの新刊をご紹介したい」「日々の変化を楽しんでいただける棚をつくりたい」という思いはかねてからあったのです。
入荷した全ての本を新刊コーナーで紹介することはとうていできません。日々これだけの新刊が発刊されるからこそ書店は成り立っているのですが、新刊台に並ぶのは、その日に入荷した新刊のうち、ほんの一握りです。
そんな状況もあって、お客様には「日々、これだけの新刊が出ている」という事実をとにかくお見せしたかった。そこから何をどう感じるかはお客様しだいですね。
着想は「積読」
──「撮影OK」の意図をお聞かせください。
2階の「BOOK SALON」には、実は他にも「BOOK CLOCK」「BOOKサイネージ」という仕掛けも用意しているのですが、リニューアル時の告知ツイート以外は、店からの情報発信は基本的にしていません。「いい」と感じていただけたなら、拡げていただける、そう考えての「撮影OK」です。
紀伊國屋書店新宿本店「BOOK WALL」=7月14日 今野良介氏Twitterより
──「並べ」ずに「積み上げる」デザインの意図は。
本が横に積みあがっている、って自宅や古本屋さんではあるかもしれませんが、当店のような新刊書店では珍しくないですか?
でも、前述の、デザイナーからのデザインラフを見る直前に当店で「積読本フェア」を開催していたこともあって、本を横倒しにして見せることに抵抗はありませんでした。いわゆる「平積み」と同じですしね。
【2階フェア】
— 紀伊國屋書店 新宿本店 (@KinoShinjuku) July 5, 2021
「積読してますか?」と聞いて回ったところ、わんさかあったので集めてみました。
特定の人には分かりみが深〜い、変わったフェアやってます。
POPには[ただ読んでなくて放置している訳じゃない]その経緯が…笑
創元社さんの『翻訳できない世界のことば』とご一緒にどうぞ。s.u pic.twitter.com/RpKGwaV3i0
1階から2階にエスカレータで昇ってくるとガラス越しにこの「BOOK WALL」(社内では「今日の新刊」「明日の新刊」をこのように呼んでいます)が見えてきます。
「WALL」の名にふさわしく、壁のように見せるためには本来、ぎっしり本を詰めたほうがよいのですが、新刊発売量は日によって同じではありません。あえて不揃いのままに陳列しています。
もちろん、気になった本を手に取る際、あるいは購入する際、本を「抜く」という動作が起きます。実際には細かく何段にも仕切っているので「抜く」ときに崩れることはないのですが、お客様に気にせず抜いていただけるように、基本的には小さい本は上に、大型本は下に、という並べ方はしています。自宅で本を「積読」する際と同じ感覚ですね。