コロナ飲み薬、販売失速 ファイザー製など数千万回分売れ残りも

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新型コロナウイルス感染症対策の「切り札」ともされる経口抗ウイルス薬の販売が伸び悩んでいる。英医療調査会社のエアフィニティによると、入手方法などに関する周知不足や投薬に適した患者が見つかりにくいといった事情から需要が低迷しており、最大手の米ファイザー製「パクスロビド(編集注、日本ではパキロビッドパック)」の場合、年末までに最大7000万回分が供給過剰になる可能性が出ている。

米国など各国の当局は、在庫分が未使用のまま期限切れしないよう医師らに有効活用を呼びかけている。

エアフィニティが25日に発表したリポートによると、新型コロナの抗ウイルス薬の売り上げは今年前半は好調だったものの、ここへきて新規契約が停滞している。薬の入手可能性や入手方法をめぐる人々の認識不足、不明瞭な処方ガイドライン、不十分な検査体制のため発症から5日以内という投与条件を満たす患者を特定することが難しい、といった要因から、米国をはじめとする国々で需要が減退しているという。

ファイザーは今年、パクスロビドを1億2000万回分生産する計画だが、エアフィニティのデータによればこれまでに売れたのは5000万回にとどまる。

新型コロナの抗ウイルス薬として世界で初めて承認された米メルクの「ラゲブリオ(一般名モルヌピラビル)」の見通しはさらに暗く、今年計画する生産量3000万回に対して需要はわずか半分だという。ラゲブリオは入院リスク低減率が30%ほどとパクスロビドの89%に比べかなり劣ることから、メルクは新規契約の獲得に苦慮しそうだとエアフィニティはみている。

エアフィニティで新型コロナ治療薬担当のアナリストを務めるハリー・チールドは、ファイザーが引き続き市場を支配するとの見通しを示しながら、パクスロビドはまだ多くの国で利用が進んでいないため売り上げは伸び悩む公算が大きいと指摘。年内に各国で在庫が薄くなることも考えにくいとしている。

経口抗ウイルス薬は新型コロナ対策でゲームチェンジャーになると期待されていた。塩野義製薬が開発した「ゾコーバ」も臨床試験(治験)で有望な結果が出ており、年内にも承認される見通しとなっている。一方で、米国では副作用をめぐって不安の声も上がっている。

エアフィニティによると、新型コロナ経口抗ウイルス薬の2022年の市場規模は世界全体で推定295億ドル(約4兆300億円)。うち79%(232億ドル)をファイザーのパクスロビドの売り上げが占める。パクスロビドは売り上げの伸びが鈍化しても、なお今年の薬市場でベストセラーのひとつになるとみられている。

編集=江戸伸禎

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