「現実に合わせるのか新たに作るのか」メタバースにおける法の問題

ルールメイクに関しては全部で11項目が挙げられるが、今回は意匠権や商標権と公序良俗保全などに関する問題にフォーカスして話が進められた


とはいえ、こういった問題について何も進んでいないわけではない。上田氏は「経済産業省でも令和2年度に、ビジネス事業者がメタバース空間に参入する際、どういう法的リスクがあるかというのを洗い出している。商標についても、メタバース上で経済活動を創出していくためには、商品や商標というものを商法的観点から保護するというのが主流になっている」とのこと。その上で「事業者は自分の商標の保護範囲をあらためて確認することと、拡充していくことが必要」と話していた。


経済産業省商務情報政策局コンテンツ産業課課長補佐(産業戦略担当)の上田泰成氏

馬渕氏から今後の進め方として「現行法をデジタルにもマッチさせていくのか、それともアンマッチでデジタル上に新たな法律を設定していくのか?」という疑問点が投げられた。河合氏は「メタバースを作るときにどういう立ち位置になるのかというのは、業者・提供社によって違ってくると思う。たとえばゲームの世界というのは、もちろん賭博やガチャなど制限されるものはあるが、わりと既存の法律が適用されない。一方で現実寄りのメタバースを作った場合は、現実のほうの適用になる可能性が高い。とはいえ子ども銀行券みたいなものを預金に関する規制や貸し付けに関する規制を課しても仕方がない。グラデーションにならざるを得ないのが現実」とのこと。


PwCコンサルティング合同会社Partner執行役員の馬渕邦美氏

実際、メタバーキン事件では、地裁レベルの判断では商標権侵害はないという主張は認めないという現実の世界に近い判断となっている。道下氏も「いろいろな要素を加味して検討しているので、一律に答えは出てこない」と話している。

上田氏も「日本のルール上、いきなり法整備というのはなかなか難しい。その中で法律的に対処する場面と、あるいは技術的な部分で整理できる場面とある。メタバースでビジネスを始めたとしても、それがグローバルで受け入れられるのかどうか。そういったときは、あえて法律が関与せずに市場の原理に任せる。法律・技術・市場、この3つの要因で複合的なアプローチをしていくしかない」と現在の状況を説明していた。

高い没入感のために起きたメタバース痴漢事件


道下氏はもう1つメタバース内で起こっている事件として、メタバース内で男性のアバターにつきまとわれたり体をまさぐられるなど嫌がらせが行われた「メタバース痴漢事件」をピックアップ。道下氏は「今までのゲームと違って没入感がすごい。そのため、今までは問題にならなかったような、まさに人権問題も出てきている」と事例を解説する。

この問題について河合氏は「現状では、これを現実の法、強制猥褻や条例などを適用させようとして難しい。ただ実際に被害者の方は恐怖感を覚えている。今のところは、Meta(メタ)が用意したセーフゾーンを使うなど、プラットフォームの中の規約とかルールでやっていく。それに反した人は、退会などの処分を受けるというふうに進んでいく」と予測。法整備では商標権のときと同じように、国の違いなどもあり法律で対処するのは厳しい。まずプラットフォーマーの自主規制や業界の標準的な考え方を作って行く方向がベターというわけだ。

道下氏も「まずは声を上げていくことが必要。ただ過剰に『ルール、ルール』と言ってしまうと萎縮効果もある。最低限こういった犯罪行為みたいなことは、一定程度業界でルールを制定していくのが良いのでは」と話していた。

文=中山智 編集=安井克至

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